第6話
私が転送機のスイッチを入れた瞬間、目の前に100人以上の我が国の騎士たちが現れた。再度スイッチを押すともう100人現れる。この会場の制圧くらいなら我が国の騎士であれば200人もいればお釣りが来るであろう。
恐らく今私の自室にも100人ほどの騎士が現れただろうから、テティは問題なく無事であろう。
「陛下、城内に次々とクレメンデルの騎士たちが転送されてきます!」
そう報告が来た頃には、ダンスパーティーの会場の中にいる国王と国王派の貴族たちは全て捕縛されていた。
「身の安全のために転送機を持ち込みます、とは申し上げましたけど、私が逃げるためのものとは一言も言っておりませんもの。
ライラを殺した人間を罰するために来たのです、逃げるわけありませんでしょう?」
そう、私は自分が逃げるためでなく、味方を呼ぶために転送機を持ち込んだのだ。そして城内のあちこちに仕掛け、どこにどれだけ仕掛けたのかの見取り図を国に送っていたのだ。
私はこの国に来て初めて、貼り付けた王族の笑みではなく、心の底からにっこりと笑った。
そして、一夜明けて翌朝にはクレメンデル国王の父がアルディバイドに来ていた。
「よくもその様なくだらない策にライラとレティシアを巻き込んでくれたものだ。これよりこの国に対してはわしが指示する。
まず、この国は我が国に併呑する。その上でこの国全ての土地をランバルド・エルムント殿。貴殿が治めよ。辺境伯の名を与える。次代はトリスタンであるから問題なかろう。
国王に阿ることのなかった家に関してはその規模と実績に合わせて、それぞれ爵位を与える。己の良心に恥じるものがないものはこのまま待つが良い。
そして、ロングストーン宰相、其方が望むのであれば、エルムント辺境伯家で働くことを許す。」
父の言葉に、叔父様ランバルド叔父様とスタンが頷く。宰相に関しては最初は黒かと思ったが、ただただ気の弱いおじさんだった。仕事はできるし判断力もあるのに今一歩を踏み出せない人なので、エルムント家で働けばその辺りのフォローは叔父様やスタンがしてくれるだろう。
宰相は「ありがたきお言葉感謝します」と受けていたので問題ないだろう。彼には死んだディラックの他にもう1人子供がいるらしく、その子はリラにも誑かされない、ディラックよりも真面目な質の息子らしく、エルムント家で一緒に暮らし、一からきちんと育てるそうだ。
「元王妃であるリーズはこの度の陰謀に加担してなかったとみなし、罪は問わぬ。だがアレンやライラについては生涯忘れることは許さぬ。」
「はい、私は修道院に行ってライラとアレンの冥福を祈りたいと思います。」
リーズ様はアレンが助からないことを悟っている様で、彼とライラの冥福を祈ると言った。父はうむと頷いていたので、リーズ様の懸念は正しいのだろう。
「王太子アレン・アルディバイドと、国王であるグランツ・アルディバイドは死刑に処す。」
「お、お待ちください。私は騙されただけで...。」
もはや立つことも叶わないアレンは青い顔でブルブルと震えながら、父に抗弁した。
「王族が無知なのはそれだけで罪である。しかも冤罪で自らが殺したライラに関して何も反省はしておらず、我が娘に関しても散々馬鹿にしてくれた様だな。まさか、助かるとでも思っていたわけではあるまい?
安心せよ、其方は普通に公開処刑で許してやろう。」
「普通に、公開処刑......。」
それってなんだろう、とぼんやりとアレンは呟いたが、父にしては恩情ある判決だ。恐らくリーズ様を慮ったのだろう。
「国王、グランツ・アルディバイド。お前はナーダ一族を守るために処刑した民の家族たちが気が済むまで制裁を与えたあとに、火炙りとする。」
国王はヒイッと声を上げたまま、失禁した。
「そして、リチャード・フント。お前も身の丈に合わぬ夢を見たものだ。お前が国王を唆したのか否かは分からぬ。だが、後の世の憂いを断つために、其方にも死んでもらおう。後程、毒杯を授ける。それから国王の歴代の公娼たちも、同じく民を騙していたものとして有罪とする。ここ2年以上国王と枕を共にしていないものに関しては罰金刑、ここ2年以内に国王と枕を共にしたものは同じく毒杯を与える。」
そうして父はそれぞれ貴族たちに沙汰を言い渡していった。この国で私を馬鹿にした貴族たちは貴族籍の剥奪や下手をしたら処刑を考えていたらしい。もちろん、その前に私が自ら処罰を下していたので、父に私のことで罰せられた人間は少なかった。
そして何より扱いに困ったのはリラである。彼女は国王に唆され、王太子やナーダ、ディラックにちやほやされ調子に乗ったただの馬鹿である。17歳くらいの平民上がりの男爵令嬢が思わず夢を見てしまっただけと言えばそうかもしれない。
けれどライラが殺された原因は彼女にもある。彼女はきちんと私が子供を産めない身体にしておいたので、後の憂いになることはないから毒杯を与えるのも躊躇われるという状態だった。なまじ生きてきた半分以上が平民だったせいで処罰することに私も父も少しだけ躊躇いが残ったのだ。
「どうぞ、私に監視をさせてください。」
そう申し出たのは元王妃のリーズ様だった。彼女はこれ以上若い命を散らしたくない、と言って彼女の監視を名乗り出たのだ。
しかし、贅沢に慣れたリラは都会での生活が忘れられず、皆が寝静まった夜に修道院を飛び出した。そして、夜の森で獣に襲われて、翌朝無惨な死体となって発見された。
リーズ様は私が監視をできなかったせいで、と父に処罰を望んだが、父が彼女を罰することはなかった。
私は今日ライラのお墓参りに来ている。彼女の好きだったピンク色のカーネーションとかすみ草の花束だ。お墓参りに来るときに用いる花ではないことはよくわかっているが、どうしても彼女の好きだった花束を持って来たかった。
私が彼女のお墓に着くとそこには先客がいた。彼女の兄のスタンだ。
「やぁ、レティ。」
「ごきげんよう、スタン。」
私たちはしばらくそれぞれ心の中でライラに語りかけていたが、お互い話し終わると目を合わせて笑った。
「ありがとう、レティ。ライラもきっと喜んでいると思う。」
「もう少し早く私が動けたらよかったのだけど。」
「それを言うなら私だ。私も父もなんとかライラを助けようと足掻いたのに何もできなかった。不甲斐ない兄だ。」
「貴族制とはそう言うものですもの、上の者に逆らうのは今回の様なことがない限り難しいことですわ。」
「そうかもな、ありがとう。
君はまた、王宮に帰るのか?」
「えぇ、そのつもりです。結婚してからじわじわと奴らを叩くつもりがあっという間に終わってしまったので、引越が大変です。こんなに早く済むなら旅行用の荷物でよかったですわね。何というか、皆様飛んで火に入る夏の虫というか、自殺志願者というか、喜んで墓穴を掘ってくれてましたからね。
反対に頭の処理がおいつきませんでしたわ。」
「その割には、しっかりとあちこちで暴れて回っていた気がするけれど......。」
「まぁ、スタンったら。私が暴れたわけではありません。あちらから来るから火の粉を払っただけです。」
「はいはい、そうかもしれないな。ところでレティ、君さえ良ければこの辺境伯領で一緒に暮らさないか? その、引越も大変だろうし。僕は結局最後までちっとも役に立てなかったから、君には相応しくないかもしれないが...」
「あらまぁ。スタン、せめてそこは引越が大変だから、ではなく他の理由をつけて欲しいところですわね?」
「他の理由...それを僕の口から今君に言えと?」
「えぇ、もちろん。私が欲しいなら、そのくらいはしていただかないと。察して欲しいなどと仰らないでくださいませね?
だって愛の言葉ひとつ囁いてもらえないなんて寂しいじゃありませんか。」
「10年以上前から態度で示してきたつもりだったけど......今更言葉にするのは、なんというか......私は口下手だから。」
真っ赤になったスタンを前に私はにっこり微笑んで告げた。
「あらまぁ、スタンったら。あなたの羞恥心なんて、どうして私が気にしてあげる必要があるのかしら?
さっさとお言いなさいな。」
完成
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