#2[SakaUra/ShimaSen] あざと可愛いに絆されない!!

Author: 春町

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20746334

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これはnmmn作品です。

登場人物は実在する方々と一切関係ありません

不特定多数の目に留まる拡散などは絶対にやめてください

誹謗中傷はご遠慮ください

関西出身では無いので方言に違和感がある場合がございます

以上のことを踏まえた上でお進み下さい

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「センラくん、その、私と付き合ってくれないかな...?」

「折原......おれ、お前のこと好きだ」

「「センラくん!/折原!!」」

「あー......、ごめんな?俺いまは勉強に集中したくて、」

高校生活2年目。

告白されることに喜びを感じていた時期はとうに過ぎ去って、断るのも面倒なもんやな、なんて人からすれば贅沢な悩みを持つようになった。

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身なりに気をつけて、当たり障りない会話をしていたら自然と、いわゆるスクールカースト上位みたいな男子が集まる。

姉にこき使われるのに慣れて、さりげなく女子では困ることを手助けしたり、こんな言葉求めとるんやろなーって言葉を言ったりしていたら女子からは告白されるようになった。

プライドの高い俺はかっこいい自分であることを心がけてきたしチヤホヤされるのも嫌いではない。
だから、この立ち位置に不満はないけれど、ただ告白を断るのがダルすぎる。というか男も告白するようになってきたのはなんなん?ダルさが倍やん。

そんなことをうらたんに愚痴ると、「せんちゃんは美人系でもあるから」と真顔で言われ、気をつけるよう護身術まで教わってしまった。
 
小柄なのに、東の頭として密かに恐れられる彼の護身術は確かで、厄介なやつ相手に見事効果を発揮してくれたのはうらたんには話せない秘密だ。

うらたんが俺に害があると気づいた時はいつも、そっと排除してそれを悟らせない。
知らんうちに月日が経ってることなんてざらにあった。

そんな年上で頼りになって、家族以外で本当のセンラを出せる人であるうらたんが、俺の部屋を突撃して、「可愛い男ってどうやってなんの?!?!」と聞いてきた日には思わずキャパオーバーしてしまったけど、協力してあげたくなるのが当然だろう。

 
 
そうして、全力プロデュースしたうらたんが夏休みに頑張っている一方で、俺はちょっと面倒な事態に遭遇している。

 

 
 
 

「あのっ...!すみません、俺、その、あなたにひとめぼ、......っちゃうかった、えっと、と、友だち!友だちになってくれませんか!?」

 

いやいやいや、一目惚れ言うてるやんもう。

 

 

美容院に行った帰り。
綺麗にセットしてもらった髪が嬉しくて、つい遠回りして帰ったり、出かけたりすることがある。

過去に戻れるならその時の俺に絶対こう言う。

 
今日だけは寄り道をせず真っ直ぐ帰れ、と。

 

「......えっと、今ちょっと急いでて、」

「あっ、そうやんな、ごめん......でも、あの、ほんまに友だちになりたくて、」

「あ、はは、また機会があったら、」

「っ、ごめん。気持ち悪いと思うけどこのままやと諦めきれん。いま、こっちの街でバイトしてて、駅付近やから、その、見かけたら話しかけてまうかも、ごめん......」

強引に腕を引いてきたり、連絡先を無理に聞いてきたり渡したり。そういうことをしないだけで、まぁ、今までのやつよりマシやな、なんて思って、最後にそいつの顔を見やる。

サラサラとした紫の髪に、印象的な泣き黒子。
顔のパーツの大きさも丁度よく、それが均整に配置されている。唯一惜しいのが少し低めの身長だけど、それをカバーする程に顔がいい。

多分、芸能人って言われても納得するし、逆にこれで一般人だと勿体なさすぎるくらいの顔立ち。

少しだけ、ほんとに少しだけその顔に見惚れて、ハッとしてから足早にその場を立ち去った。



 

まぁそんな普段とは違う日があったけれど、俺の日常には何も関係ない。
そう思って、すっかり忘れていたのに、数日後の俺の目の前にはあの時の、紫頭が立っていた。

「......!?つっ、月崎志麻です。よろしくお願い、します」

「この子、夏休みだけお手伝いの月崎くん。夏休みだし僕と君だけじゃ大変かなぁって思って、知り合いの子に頼んだんだ」

「......あ〜、そういう、」

「同い年だし仲良くなれるんじゃないかな?分からないこと多いと思うから、助けてあげてくれると嬉しいな」

「......はい、わかりました」
 
 

駅近くの個人経営のカフェ。
元々姉が働いていて、辞めるタイミングで幸運にも滑り込ませてもらったこじんまりとした店をセンラは大概気に入っていた。
某有名チェーンのカフェが近くにある分、それほど客が多い訳でもなく、気の良い常連たちの憩いの場にもなっている。

店長もいい人で、たくさんお金を稼ぎたいわけでもなく、まったり働きたいセンラにとって、勉強疲れの気分転換にもなる所だったのに。
 

まぁ、彼と会話した時間なんて5分もないし、数日経っている。覚えているわけないだろうなんて、センラの細い希望は少し緊張気味の心地よい声に断ち切られた。

「っあ、!あの、この前の美人さん、よな?」
 
「............美人以外の呼び方ないんですか?」

「ごめん、名前わからんくて......」

「はぁ............」
 

深くため息をついた俺に、かける言葉を探しているのかおろおろした様子の彼。
さっきの様子からバイト先が被ったのは偶然のようだし、俺が嫌がっても彼が夏休みはここでバイトする事実は変わらない。

「......折原、折原センラです」

「! ............せんら、さん」

「よろしくお願いします、月崎さん」

最初から名前呼びか、と思わなくはなかったけど、噛み締めるようにして俺の名前を繰り返す月崎さんにまあいいか、という気になる。
断じてへにゃっとした笑顔に負けた訳ではない。

「バイトは初めてなんですか?」
「カフェは初めてなんやけど、いつもはコンビニバイトしてて......、ぁ、して、ます」
「敬語使わんでいいですよ。月崎さんのほうが年上やと思いますし」

オーダーの取り方から教えるんで、とその整った顔から目線を外して歩き出す。
 
コンビニバイトしてたんならレジはとりあえず後回しでええやろ。

どことなくそわそわした様子の月崎さんと最低限の視線しか交わさずに、教えなければならないことを頭で整理した。




「いらっしゃいませ。2名様でよろしかったですか?」
 
「お客様、お召し物が汚れてしまいますので宜しければこちらお使いください」

「またのご来店お待ちしております」

「あっ、あの............!これっ!......っ待ってます!」

顔を真っ赤にした女の人が置いていったメモは多分、連絡先が書かれたもの。
接客には慣れているだろうと思っていたけれど、コンビニというより執事喫茶のような丁寧さの月崎さんは、常連さんにも、ご新規さんにも人気が出た。
 
それにあの顔の良さ。
 
どの年代の女性も月崎さんを見て、とりわけ若い女性はさっきのようなことが度々起こった。

 

俺だって連絡先を渡されたことがないわけではない。
でももう少し控えめというか、ここまで熱烈なものじゃなかった。

こんなにも女の人が必死になってるのは恐らく、店長が漏らした月崎さんが夏休み期間のみのバイトという情報だろう。

口を滑らせた本人は「月崎くんはモテるねぇ」なんて悠長に構えているし、困っているのは当事者の月崎さんと剥がし役に回った俺だけ。

俺もよくやるような、線引きという名のあしらいを月崎さんもやっているけれどそれを上回る圧がそこにはあった。

いつもは静かなカフェも、夏休み期間は穴場として客足が伸びていたが今年はそれよりも異例の年。
終わる頃には接客を任されている月崎さんも俺もヘトヘトになっていた。

「っはぁあ......やっと、終わった、」
「つ、かれた............センラさん、ほんまにごめん」

そう言って、ぺしょっと耳を折りたたんだ猫のようにしょぼんとする月崎さんを責める気なんて起きなくて、適当に宥めながら常備されているペットボトルを2人分用意する。

年上で、顔が良くて、女性をあしらうのも慣れているだろうに。俺の前では情けなく、ヘタレのようになる月崎さんを、最初の頃のように突き放そうとは思わなくなっていた。

「いーですよ別に。大変ですね月崎さんも、働いてるコンビニでも女性人気凄そうやんか」

「んん、あっちではそんなかなぁ」

「そうなんですか?」

「おん、分厚い眼鏡してなるべく前髪で隠しとる」

「 ? ......じゃあそうすればええやん」

「......やって、こっちはセンラさん、おるもん」

え、なんでここにきて急に俺のせいみたいにされるん?
好きにすればええやん見た目なんか。
俺が文句言うと思っとるってこと?

 

「センラさんには、俺のダサいとこ見られたくないんよ......」

 

 

「その、!迷惑かけてる時点でダサいんやけども!」

何故かわたわたとしだす月崎さんを見つめる。
声を掛けられ続けるのに疲れて自分からダサい格好をするくらいの男前が、センラに見られたくないからという理由だけでそのお綺麗な顔をさらしてるのか。

へぇ、............そおなんや、

「...............俺も、月崎さんの顔はいいなって思いますよ」

「 ! 」

「っ今度の休みって空いてたり、」

「今度の休みは用事あるんで」

ガンッとショックを受けて、ぺちゃりと机に沈んだ月崎さんに笑いが込み上げてくる。
それを横目に見つつササッと帰る支度を済ませて、「お疲れ様ですー」と店長に一言。

後ろから慌てたような物音が聞こえるけど知らんぷり。

どうせこの後にバタバタとした足音を立てて追いつくんやから、気にせずお店のドアを開けて帰り道へと歩き出した。

仲がいいと断言できるほどの関係ではなく、まあ会話を続けようと思えば続けられるくらいの関係性。

そんな彼が呼び鈴を押したもんだからオーダーを取りに行ったのに、突然、「ボクの席にずっといて」なんて意味のわからんことを言い出してきた。
 

「なんで分かってくれないんだよっ!!恋人のボクがこんなに心配してるのに...!!」

「っは?え、恋人って、?」

「ボクが弄られてたらさりげなく助けてくれたり、話しかけに来てくれたりして、......好きなんだろボクのこと!!だったら他の男に媚び売るなっ!」

何を言ってるのか全く理解できなくて思わず固まる。
助けたのも話しかけたのも、グループワークが進まなくなるからやし勘違いさせるような態度をとった覚えもない。
それがどうやら彼の中では俺が好意を持っているに変換されているらしい。

唖然としてしまって、理解できない人を前にしたからか、掴まれた腕にゾワリとした嫌悪感を覚えた。

「ほらっ!こんな店辞めなよ!!!」

「ちょっ、他のお客様の迷惑やからっ!」

「お客様。どうかなさいましたか?」

 
その声と同時に、目の前からは痛みに呻く声が聞こえて、掴まれていた腕が解放される。
代わりにそっと腕を引かれて、見慣れた紫が俺の視界へと映りこんだ。

「っ、!っ、!お前っ、折原くんから離れろよ!」

「お客様。当スタッフは勤務中です。これ以上騒がれるなら他のお客様のご迷惑となりますので退店して頂く必要がございます」

 

「周りの皆様からも見られてますよ」

俺から月崎さんの顔は見られないけど、その声は聞いたことのないくらい冷たい。
周りにいたお客様も当然この騒ぎに注目していて、店内中の視線を集めた彼は顔を真っ赤にして、そのまま店から飛び出してしまった。

それを見送ってから、店内にいるお客様に店長が謝罪して、慌てて俺も頭を下げる。

幸いお客様の少ない時間帯で、常連さんばかりだったから優しく許してくれて、なんなら「裏で休んでおいで」とみんなに言われてしまった。
加えて店長からは「月崎くんも一緒に」の一言があって、そのまま腕を引かれて裏へと向かう。

「あの、......すみません、こんな騒ぎ起こしてもうて」

「センラさんが謝ることやないやろ」

「っでも」

「怖かったやろ。......すぐに行けなくてごめん」

月崎さんが謝ることではないし、別に大丈夫だったのに。心底心配そうな目をしてこちらを気遣うから、張り詰めていた虚勢がボロボロと崩れていく。

「........................ちょっと、......こわかった、です」

こんな縋るみたいなことしたくなかった。
俺が漏らした言葉を聞いた月崎さんは弱い力で俺の腕を引いて、反対の手で自身の肩へと俺の頭を引き寄せてくれる。

 

こわかった、

線引きは上手い気でいたのに、変な勘違いを生んでしまっていて、相手は聞く耳を持たなくて。

今だって理解はできていないけど、お店にだって迷惑をかけているし、またこんなことがあるかもしれないから怯えてはいられない。グッと怖さと一緒に息を飲み込む。

「......もう戻らな、」

「センラさんは戻らないで裏で仕事しよ、俺が表回すから」
 
「そんな心配せんでも......」
 

「ええから、お願い。好きな人の心配させてや」

 

もう飲み込んだから大丈夫なのに。酷く優しい声でそう言われて、こちらを気遣うお願いという言葉に押し黙る。

「好きな人」なんて、いつもの月崎さんだったら言った後にハッとして、もっと慌てるのに今はそんな様子もない。俺に向ける目はずっと心配を全面に出していてやさしい。
 
大人しく頷いて、そんな俺に安心したような笑顔を見せた月崎さんの顔はなぜか真っ直ぐ見れなかった。





 

「センラさんほんとに早上がりせんで大丈夫やった?」

「大丈夫ですって、裏で休ませてもらいましたし」

その後はいつも通り穏やかなカフェで、月崎さんや店長が気をつかってくれたから裏でゆっくりと作業することができた。

表をほとんど1人で回してくれていた月崎さんには頭が上がらない。
店長は珈琲や料理を担当しているし、俺はその手伝い。
オーダーやお会計、バッシング。お客様への対応は全部月崎さんに任せてしまったのだ。

「改めて、本当にすみませんでした......それと、ありがとうございます」

「そんな気にせんで。急に腕掴まれてあんな大声出されたら固まるって」

あの時は思わず固まったし振り解けない手の力に驚いた。
そういえば彼は柔道とかそこら辺で注目を浴びていた気がする。そんなに記憶はないけれど。

「アイツとは、友だちやったん?」

「へ、......あ、いやそんな友だちって呼べるほどは、」

「......! そうなんや」

知り合いは知り合いだけど友だちではない。
それを素直に月崎さんに言うと、心做しかパッと顔が華やいで、ふにゃりとほぐれた。

「俺もまだ友だちにしてもらってないのに、あんなやつがセンラさんの友だちやったら......ずるすぎやろ、」

「っふ、ふふ......そんなことで、そんなっ......」

「そんなことやない!俺には大事なことや!」

 

「俺は、とっくに月崎さんのこと友だちやと思ってたんですけどね、」

「え!?」なんて大袈裟な程に驚く月崎さんは、さっき俺を庇った時のような落ち着きはなく、その大きな目を零れ落ちそうなほどに見開いている。
それにくすくすと笑っていると、ハッと我に返ったらしい月崎さんが、緊張した様子でこちらへと顔を向けた。

「っ...今度の日曜、遊びにっ!」

「いいですよ」

「エッ!?!?」

別に友だちやったら遊びに行くくらい普通やろ。
そんな特別なことではない。
「あかん、俺もう死ぬかも...」なんて情けない声を出している月崎さんはこんな様子で大丈夫なんやろうか。

「せ、せんらさんっ!......めっちゃうれしい、ありがとぉ」

これは助けてもらったお礼やから。
断じて、俺も一緒に遊びに行けるのを楽しみにしているわけではない、はず。

――――――――――――――――――――――――

 

仕事の連絡をすることもあるから、と交換していた連絡先は、最近はその役目よりも何気ない会話や、日曜のためのやり取りとしての役目を果たしていた。

そんなこんなで迎えた日曜日。

鏡を見て、出かける前の身だしなみを整える。

アイロンを使ってほどよく抜け感を出しながら髪をセットし、耳には仕事では付けない揺れるピアス。
月崎さんの私服はどっちかっていうと黒よりが多いから、今回は俺も黒を多めにして、最後にキツすぎないように離した距離で香水を香らせる。

まぁ、出かけるんやし身支度をするのは当然やし。
あんな男前の横に立つならこれくらいはせんと俺のプライド的に許せん。

姉から早く行ってこいと一蹴されてしまったので、約束より早い時間やったけど、待ち合わせ場所へと向かう。
月崎さんはしきりに近くまで迎えに行くと言ってくれていたが、申し訳ないしそれは丁重にお断りした。

無意識なのか軽く頬を膨らませていたけれど、すぐに切りかえたらしく、「せやったら俺が行くまで誰にも愛想良くせんで。......ほんと、だめやからね」なんて。
 
まるで彼氏に頼みこむ彼女のようなことを言われてしまった。

それにちょっとだけ、可愛いと思ったのは絶対に口に出せない。

 

 

(あ、あれ月崎さんやんな......まだ約束した時間より全然早いのに)

遠目にやけど、駅近くで女の人に囲まれる紫。
ここからだと紫の髪と黒い服しか見えないけど、あの人だかりは絶対そう。
 
自分が注目されているというのにそれを気にもしていなくて、囲んでた女の人がはけていく様子から声をかけられてもきっぱり断っているらしい。ずっと無関心を貫いて手元の画面に目を落としている。

あの中に入って声かけなあかんのか、って億劫な気になるけれど、しゃーなし。

 
「つきさきさ、...............!?!?」

グッと突然腕を引っ張られて、そのまま、物陰へとズルズル引きずられる。
出そうとした声は俺よりも大きな手に塞がれて、路地裏の拓けたところでようやく解放された。

 

「っ、は、......は」

 
「なんで、............なんで、あいつと、......」

「やま、もと、く」

「だから早く辞めなって、言ったのに............。あ、......違うよね、折原くん、純粋で優しいから騙されてるのか。あいつに変なことされて、それで、......、ボクが目を覚ましてあげないと、ボクが、」

ブツブツとひとりで話したと思ったら突然、バッと顔を上げてこちらへと目をやる彼はどう見ても正気ではない。

ジリジリと距離を詰めてきたからその圧に後ずさると、相手の気を損ねたのか、肩を掴まれてガンっと壁へと打ち付けられた。

「ねぇ、ボクのこと好きだよね?なんで逃げるの、逃げちゃだめだよね、逃げてどこいくの、あいつのとこ?」

「いっ、......はなせっ、や!」

「ボクはこんなに折原くんが好きなのにっ......!!なんでなんでなんで!っなんで!!!!」

振り上げられた手の平が見えて、あ、これ叩かれるんやなってどこか他人事のように感じる。
こんなことになるなんて思うわけないし、俺の対応が悪かったとも思えない。
 
理解できない相手に何を言っても無駄だし言ったとしても火に油。
 
次にくる衝撃に備えて、グッと歯を噛み締める。

 

ドゴッという鈍い音はしたのに、いつまで経っても痛みがくることはなくて、恐る恐る目を開けた。

さっきまで俺の目の前にいたやつはいなくて、代わりに目に入ったのは、息を切らしながら鋭い目をした月崎さん。そんな彼は俺と目が合うとホッとしたような顔に変わった。
 

「っ! 月崎さ、ん......」

力が抜けてズルズルと壁を伝ってしゃがみ込む。
すると地面に倒れ込んだ山本君が見えて、俺が驚いたと同時にそいつが立ち上がる。
グルっと月崎さんの方を向いて、そのまま勢いをつけて走り出すそいつを、止めないと、と思って役に立たない腕を伸ばした。

危ないと思ったのに、月崎さんは冷静に脚を一歩さげて、もう片方の脚を軸にしてそのまま綺麗な回し蹴りを相手の頭にキメた。
それに合わせて揺れた紫髪から、普段はしていないピアスが反射して、思わずそれに目を奪われる。

相手は脳を揺さぶられて倒れ込み、そんな相手に月崎さんは近寄って、そのまましゃがみ込んだ。
呆然としてそれを見ていたら月崎さんの手が相手の頭へと伸びて、ガシッとその髪を掴む。

 

「..................おい、おんし何しゆーが」

「ッヒュ......」

「この前の、映像残っとるんやけど。これ以上センラさんに近づいたら、......分かっとるよな?」
 

その声も目線も、向けられているのは俺じゃないのに、ビクッと身体が震えた。
底冷えするような声と視線を向けられているそいつは俺よりも震えていて、掴まれていた髪が離されるとバタバタと脚をもつれさせながらこの場を後にする。

残されたのは俺と月崎さんだけ。

 

「......、あ、の、つきさき、さん、」

「っ......!せ、せんらさん、」
 

立ち上がった月崎さんに話しかけると、ビクリと身体を跳ねさせて、恐る恐るこちらを向く。
その顔は悪いことがバレて泣きそうになる子どものよう。
 
 

「こっ、これは、その、えっ、と、ちゃうくて、........................っ、嫌いに、なっ、た?」

身震いするくらい冷たい声や視線であれほど興奮状態だった相手を黙らせて、慣れた手つきで髪を掴んで脅しをかける。

そんな姿からは想像できないくらい、しゅんとした様子で上目遣いをしてこちらを伺う月崎さん。

ダサいところを見せたくないといっていたように、あの姿も多分、彼が見せたくなかったもの。
俺に嫌われないよう、必死に隠していたそれは、俺を助けるのにいっぱいになってしまった彼の頭からすっぽ抜けてしまったらしい。

そんな不器用でまっすぐなところに、心臓がとくとく、と音を立てる。

「志麻くん」

 

「......っえ、しまくんって............、」

 

 

「俺たち、付き合わへん?」

 
「へ、.....................エッ!?!?」

 

絆されたとか、そういう訳ではないけれど、相手が俺を好きな今、変に意固地になってチャンスを逃すなんて馬鹿のやることや。
 
それやったら自分から捕まえにいくのが1番やろ。

「っせ、せんらさん、俺のこと、好き、なん......?」

「好きやなかったら言わんやろこんなこと」

「はわ......」

信じられないのか、細い声をだして志麻くんは固まってしまった。そんな志麻くんの腕をガシッと掴む。

「......助けてくれて、ありがとうございます。信じられんかもしれんけど、ちょっと前から志麻くんのこと好き。だから俺と付き合って欲しいんやけど、.........あかん、かな、」

自分から告白なんてしたことないし今だって顔から火が出そうなくらいあつい。
それでも、ちゃんと好きだから、綺麗な紫の瞳を見つめながらそう告げる。

「っあかんわけない!俺の、俺の方が好きやもん...」

「 ! ......はぁああ、よかっ、たぁ」

志麻くんの返事を聞いて、ずっと続いていた緊張状態が解けたのかへなへなとそのまましゃがみこむ。
それに合わせてしゃがみ込んでくれた志麻くんが背中を摩ってくれて、思わず勢いづけて彼の身体を抱き締めた。

 
「っわ、!............センラさん、?」

 
 

「............すき。......最初は、変なやつに絡まれたって思いましたけど、まっすぐな志麻くんのこと好きになってもうた」

勢いをつけたせいで、俺を支えつつも地べたに腰をつけた志麻くんに、伝われって気持ちで思ったことを言葉にした。
 
さっきあれだけ怖い思いをしたのに、それが薄れてしまうほど、彼の存在に安心してしまう。

「............あんま可愛ええこと言わんで」

「散々あざといことしてきた志麻くんが言います?」

「センラさんはもっと自覚してや...。あんた美人で可愛ええのにちょっと隙多いんよ」

俺の言葉を聞いたあと、そう言って志麻くんはぎゅうっと身体を抱き締めてきた。
そのままぐりぐりと俺の肩に頭を押し付けるから、その子供じみた仕草が可愛くて、くすくすとした笑いがこぼれる。

そんな俺にムッとしたのか、顔を上げたらしい志麻くん。
ちょうど俺の耳元あたりに顔が来て、

 

 

「ひっ、......ぅ」

 

「ほら。センラさん、可愛ええ」

ふっ、と俺の耳に吐息混じりの声をおとしながら軽く触れるくらいの手つきで弄ってきた。
思わずバッと肩を掴んで志麻くんから距離をとると、にこっと笑う顔と目が合う。

「わかったやろ?」
「............志麻くんの方が可愛ええし、」

 
「なぁん、まだ納得しとらんの?ほんなら、」

「――っ!」

離れた距離を詰めて、俺の頬を志麻くんの手がやさしく滑る。あの整った顔が段々と近づいてきたから咄嗟にずらそうとしたのに、それを阻むように誘導された。
 
逃げられないことを悟って、ぎゅっと目を瞑る。

 

てっきり唇に触れられると思ったのに、頬に軽く何かが触れたと同時にリップ音を立てられた。

「っ、、え......」

「口は、センラさんがええよってなったらさせて」
「なっ、!......せんらは、別に、」
「えぇ〜?肩ガチガチに力入っとるやん」
 

「............志麻くんがヘタレだっただけやないの」

「それも、まぁ、あるんやけどぉ......」

俺の緊張を指摘して笑う彼に何か言い返してやりたくなって、ヘタレなんて言葉を言ってみたら存外素直に認めるようで。
やっぱりな、と思っていると居心地悪そうにしながら志麻くんが口を開く。

 

 
 

「俺、このままやとセンラさんにえっろいチューして足腰立たんくさせるで」

「........................はぁ!?っそんなん志麻くんの我慢の問題やん!!!」

「むり、今センラさんめちゃくちゃ可愛がりたいモードやからむり」

さっきまであれだけ男らしく迫ってきていた男が今はうーうー唸って無理を連発している。
情けないけど、それを可愛いなんて思ってしまうくらいにはこの人の深みに嵌ってしまった。

「志麻くん」

持ち上がったお綺麗な額にピンッとデコピンをきめてやる。そして、その衝撃で目を瞑った志麻くんの唇に自分のを軽く触れさせた。

 

「俺も、受け身なだけやないんで。ちんたらしとったら先に志麻くんの足腰立たなくさせたる」

 

そう言って挑発するように微笑んでから離れたのに、俺の頭の後ろには志麻くんの手が回ってきていた。
 
その後はまあ、有言実行をされたわけだけどここでは割愛させていただく。

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