#2[R18][SakaUra/ShimaSen/SenShima] これからも、僕だけの。
Author: じゃむおじ
Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17320713
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- これからも、僕だけの。 -
暗い部屋の中で 僕はいつもひとりぼっち
外からは雷と雨の音が聞こえてきて
部屋の窓がガタガタと風で動く
その音をなるべく遠ざけるように
僕は両耳を強く塞いだ
こわくない
こわくないよ 僕は一人で大丈夫だから
『……!!………!!!!』
部屋の遠くから、何か叫び声が聞こえてくる。
段々と近づくその声に、僕は耳だけじゃなくて目も閉じた。
まっくらでも こわくないよ
つめたくても 一人でも さみしくないよ
『……ら…!!!……んら……!!!!』
声が段々はっきりしてきて、僕はその声を聞いて閉じていた目も耳も開けて離す。
『……んら…!!!…………センラ…!!!』
僕はその声に引き寄せられるように立ち上がって、大きな扉のドアを開ける。
声が聞こえるところまで夢中になって走ると、小さな体が口元に手を寄せて僕の名前を叫ぶのが見えた。
僕はその体に、飛びつくように抱きつく。
驚いたように体を震わせたその体が、やがてゆっくりと僕を抱きしめた。
さみしくないよ
だって いつもキミが来てくれるから
いつも 僕をみつけてくれるから
『…安心しろ。俺がセンラを守ってやる』
その優しい声で 頭を撫でてくれる手で
優しく笑ってくれる君がいるから
それだけで 僕は安心できるから
だから さみしくないよ
だから そんな顔しないで
僕は大丈夫だから
笑っていいよ 泣いていいよ 怒ってもいいよ
キミがさみしいと ぼくは______
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「……ん…………」
深い眠りからゆっくりと目を覚ますと、いつもと同じ天井が視界に入ってくる。
まだ覚めきっていない重い体をゆっくりと上げると、目から水が零れて布団に落ちる。
目尻に手をやると、泣いているのだと気づいた。
(……懐かしい、夢やったな)
目尻に溜まっていた涙を服の袖で拭い、掛け布団を雑に剥いでベッドから体を起こす。
俺の名前は折原センラ。
年齢は22歳。
どっかのアホ赤髪と同い歳。
そして『CREW』の運営や受付を任されている。
俺の朝は早い。
なんたって『CREW』の運営はかなり大変だからだ。
裏ではかなり有名な人気店となってしまったこの店は、朝から晩までお客さんや電話が耐えない。
それを対応するのが、俺の仕事。
『CREW』専用の茜色のカッターシャツに、黒色のネクタイとジャケットを羽織る。
ポケットには、いつも肌身離さず持ち歩いているお守りを入れるのも忘れない。
金髪の髪をセットして、ふぅ、と息をついたあと、出来たてのパンをかじって玄関を飛び出す。
俺の住む高層マンションから徒歩5分ほどでつく建物に入り、エレベーターに乗って地下2階のボタンを押す。
ガタン、と少しの振動で止まったエレベーターが扉を開くと、いつもと同じ嗅ぎなれた香水の甘い匂いが鼻をくすぐった。
いつもの受付の奥の扉に入ると、赤髪の男がひょこっと頭をだす。
「おっセンラー!おはよう!!」
「……朝から元気やなぁ、お前は」
坂田明。アホ赤髪。
店での名前は“AKIRA”。みんなからはREDと呼ばれている。
もうあだ名“RED”やなくて“アホ”でもいいと思う、なんてコイツの元気な笑顔を見る度に思うのは内緒だ。
コイツはつい最近まで、ここの店『CREW』No.2の男だった。
“だった”との言葉で分かるように、コイツは今、『CREW』No.2の男ではない。
俺と同じ受付と運営、更には『CREW』に最近出来たBARの営業までしてもらっている。
坂田がNo.2を降りた影響は半端じゃなかったが、坂田がBARをやり始めるとどこからか聞きつけた客は、定期的に坂田の場に訪れている。
「朝元気やなくて、いつ元気になれっちゅーねん!」
「夜だわアホ!!俺らの仕事は夜がメインや!!」
「んな怒んなや〜!!」
俺の返答に声を上げる坂田だが、コイツは最近人格が変わったかのように笑顔を向けることが多くなった。
原因はたった1つ。
半年前に出会った“うらさん”という男の人と、晴れて恋人同士になったからだ。
“うらさん”と坂田にも色々あって、俺もハラハラしていたが、なんとか実ったようで本当に安心した。
「はぁ……で?今日会うん?」
「!!っえ、なに!?」
俺の言葉に大袈裟に反応する坂田に、俺はまだ完全に覚めていない頭を抱える。
俺よりも早くここに来るなんてことのほとんどない坂田が、今はずっとそわそわしながら携帯や時計を見ている。
そんな分かりやすい坂田の行動に、俺はため息をついた。
「“うらさん”。会うんやろ?」
「…っう、ん……へへ……」
へにゃりと顔を綻ばす坂田に、少し呆れながらも、幸せそうでよかった、と安堵の息をつく。
坂田の笑顔は、俺の心をいつも救ってくれる。
そんな笑顔を取り戻してくれた“うらさん”という男には、本当に感謝しかなかった。
「…あの日から、お互い忙しくて中々会えへんくて…でも昨日、同期の加島さんがここ来るって言うから着いてくことになったって連絡あって」
「ほぉん?やからそんな張り切っとるんや」
「だ、だって緊張して寝れへんかってん…!!」
真っ赤になって反抗の言葉を投げる坂田に、俺はクスクスと笑ってしまう。
「幸せな睡眠不足やなぁ」
「うぅ……なんとでも言ってくれ」
そんな会話をしていると、紫色の髪をした男が扉から大きな欠伸をしながら入ってくる。
『CREW』No.1のSHIMA。
本名は月島志麻。
俺や坂田よりも2歳年上の、24歳。
俺の小さい頃からの幼なじみ。
持ち前の色気と体つきと顔に、SHIMAに堕ちない人などほとんどいない。
一つ悪いところといえば、自分の気に入らない人との時間を終えた時や、機嫌が悪い時、口の悪さと目付きは尋常じゃない。
そんな志麻くんに、『まーしー機嫌悪いなぁ〜!』とお得意な笑顔で立ち向かっていく坂田には、正直尊敬以外の何物でもなかった。
「あっ、まーしーおはよー!!」
「ふぁ……おう坂田…早いなお前…」
「え!?そう!?!」
明らかに動揺する坂田に、朝が弱い低血圧な志麻くんはまた欠伸をする。
志麻くんも俺同様、坂田の恋を陰ながら応援していたため、坂田がここに戻ってきた時には安心したように笑いながら、坂田の頭をわしゃわしゃ撫でていたのを覚えている。
志麻くんは面倒見がいい。
坂田もそんな志麻くんによく甘えていて、なんだかんだ言いながら坂田の話を聞いてあげている志麻くんをよく見る。
「今日“うらさん”来るんやろ?」
こぽこぽと志麻くん専用のコップにコーヒーを入れながら、目を擦った志麻くんが坂田に問いかける。
「っえ、な、なんで知っとるん?」
「俺の客、今日来るから」
「あ……そっか、そういうことか…」
「…なんや、連絡先交換してもよかったん?」
コーヒーを一口飲んだ志麻くんが、ニヤニヤとからかうように笑って坂田に顔を近づける。
志麻くんは人との距離感が少しおかしい。
初対面の相手ですら、相手を翻弄するかのように瞳を見つめ、そして堕とす。
SHIMAの客を堕とす一つの戦法でもある。
「なっ、だ、ダメ!!まーしーはダメ!!」
「俺の顔見てもなーんも反応示さへん男とか、ちょっとそそるやんなぁ?」
「ダメやって!!うらさんは俺の!!」
「分からんでー?俺と一晩過ごしてみれば、気持ちも変わるかもしれへんからなぁ」
「うぐぅぅ……っ」
悔しそうな顔で対抗する坂田と、笑いながら冗談やって、と頭を撫でる志麻くん。
その志麻くんの笑顔に、俺も自然と口元が緩んだ。
坂田が居てくれるだけで、志麻くんは楽しそうに笑ってくれる。
坂田が居れば、俺も志麻くんも穏やかな気持ちでこの仕事を続けられるのだ。
だから俺にとって、坂田は大切で、居なくちゃいけない存在。
もちろん坂田が大切なのはその理由だけじゃないが、坂田に一番感謝しているのはその部分が大きいと思う。
志麻くんの、心を許した人だけに見せる優しい笑顔が、昔からずっとずっと、大好きなんだ。
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‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
時刻は22時46分。
受付での対応をしていると、隣に居た坂田がそわそわし始めた。
22時を回ってから、時計を見る回数が多くなった坂田を見て、そろそろ来るんだろうな、なんて勘づいてしまう。
すると、入口から2人のスーツ姿の男が現れた。
小柄な体と見覚えのある顔に、あ、と声を上げる前に、坂田がその男の元へ駆け寄っていった。
「うらさん!」
坂田の声に、男がもう一人と話していた視線を坂田へ向けると、ふ、と表情が甘く和らいだのが俺でも分かった。
「うらさん、仕事おつかれ!」
「…ん、さかたも。おつかれ」
「…へへ、ん!」
嬉しい、という感情を全身で表し、尻尾が見えるほどの笑顔で迎え入れる坂田の顔に、俺はふ、と思わず微笑んだ。
「ちょっとぉ、俺もいるんですけどぉ!」
すると、その様子を見ていたもう1人の男の人が、拗ねた顔をして2人に声をかける。
「浦田はまだ渡しませんよ〜AKIRAさん!」
「っえ」
「俺の付き添いで来てもらったんですー!だからまだ浦田は俺のものですから!!」
「おい加島、変なこと言うんじゃねぇよ…」
「へへ〜、ほら浦田行くぞー!!」
“うらさん”の片腕にしっかりと抱きついて受付に向かってくる男を見て、坂田が呆気に取られている。
そのアホ面に笑いを堪えていると、加島という男が受付にやって来た。
その男の顔が少し赤く火照っている。
おそらく酒を飲んだ後に、この店にやってきたのだろう。
「こんばんはー!SENRAさん!」
「こんばんは、加島様ですね」
「はい!今日もよろしく、お願い、しま〜す!」
いつもよりテンションが高く、声のトーンも2つほど上だ。
かなり機嫌が良いのだろう。
不思議に思って思わず隣の男を見ると、俺の疑問に気づいたのか恥ずかしそうに話してくれた。
「…坂田とのこと…報告したら、祭りだって言って沢山飲んでしまって」
「…!ふふ、そうなんですね」
「すみません…迷惑かけて」
「いえいえ!いいんですよ、俺も坂田から聞きました。俺もほんと、嬉しいです」
本心のままに言うと、その男も安心したように少しだけ微笑んでくれた。
やがて志麻くんが現れると、加島さんの元へやって来る。
「加島くん、ちょっとだけ部屋で待っててくれる?話ついたらすぐ行くから」
お得意のSHIMAの顔で、ニッコリと笑って加島さんに言うと、嬉しそうに頷いた加島さんが指定された部屋へと向かっていく。
それを見届けた志麻くんが、ふぅ、と息をついて、受付にあるカウンターに座っていた“うらさん”の隣に座った。
それを見て、坂田は大丈夫だろうか、と坂田の居た方へ目を向けると、どうやら坂田がAKIRAであった時のお客さんが来たようで、AKIRAの顔をして対応していた。
「……この前はありがとな、“うらさん”」
志麻くんが、“うらさん”の顔を見て頭を下げてお礼を言う。
それを受けた“うらさん”が、頭を振って否定した。
「頭下げないでください。鍵返した時にも言いましたけど、俺がしたかったことしただけなんで」
「…ほんま、いい男やなぁ。あんた」
優しく微笑んで顔を近づける志麻くんに、“うらさん”が少し気まづそうに笑う。
すると、急に“うらさん”の顔が志麻くんから離れたと思えば、その後ろには“うらさん”の背中に抱きつくようにしながら、ムスッと拗ねた顔をする坂田の姿があった。
「まーしー顔近いって!」
「坂田…」
「なんや坂田、うらさんと話しとっただけやで?」
「話す距離が近いんやって!!あとうらさん呼びダメ!俺だけがうらさんって呼ぶんやから!」
ぎゅうっと“うらさん”の体を後ろから抱きしめる坂田に、当の本人である“うらさん”は真っ赤になった顔を隠そうと必死に坂田に抵抗している。
「ちょ、さかた…っ!他のお客さん来たらどうすんだよ…!」
「ええもん。うらさんは俺のって見せつける」
「〜〜っ、お前な、それ俺が標的にされるんだっつの!!」
慌てながら坂田の腕の中でしばらく暴れるが、一切離す気はない坂田に痺れを切らしたのか、諦めてすっぽりと坂田の腕の中に収まっている。
そんな様子を見て、坂田が満足そうに志麻くんの顔を見た。
「ってことで、うらさん以外で呼んでな。名前呼びもダメ!」
「はいはい、わぁったよ。うらたさんな」
「センラも!!」
「じゃあ俺はうらたんって呼びますね」
ずっと言ってみたかったその呼び名に、坂田もうらたんも驚いた顔をする。
坂田は複雑そうな顔をしたが、うらたんが何とかなだめてくれたようで、何も言われることはなかった。
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side:浦田
やがてSHIMAが加島の元へ戻り、坂田もBARの方へ行って、この場にいるのは俺とセンラさんだけになった。
「すみません、坂田のやつが迷惑かけちゃって」
「いえ…俺も恥ずかしいところ見せてすみません…」
「全然いいんですよ。今日の坂田、ずっと時計見てそわそわしてましたから」
「……そうなんですか…」
そんな坂田の様子を聞いて、思わず口が緩みそうになる。
坂田がいきなり抱きついてくることにはかなり驚いたが、必死に抵抗する反面、『見せつける』と言ってくれた坂田に、嬉しい気持ちが溢れるばかりだった。
久しぶりの坂田の温もりに、以前の夜の記憶がぶわ、と蘇ってきて、顔の赤さは隠せていなかったと思う。
「今日久しぶりに会ったんですよね?ごめんなさい、今日も人が多くて、坂田も空きがなくて」
「あ、いえ、大丈夫です。遅くまでお疲れ様です」
相変わらず気配りのできる人だな、なんて思う。
うらたん、と呼ばれた時には少し驚いたが、坂田が大切に思っている人にあだ名で呼ばれるのは、なんだか嬉しく感じた。
「…あの……失礼かもしれないんですけど、少し聞きたいことがあって……いいですか?」
すると、センラさんが申し訳なさそうに眉を下げて小声で聞いてくる。
なんだろうか、と思いながら耳を傾けると、俺の耳に口を寄せて小声で聞いてきた。
「…体関係からだったのに、どうやって坂田のこと振り向かせたんですか…?」
「っえ」
驚いて顔を離すが、センラさんがからかっている様子は一切無く、真剣な表情だった。
「坂田、俺の知ってる限りでは、恋人今まで居たことないんです。あんなに人懐っこくて顔もいいアイツなら、好意を向ける人が寄ってこないなんてありえないのに……だけど『CREW』で知り合ったうらたんは最初から、なんというか、体関係だけじゃない別の何かを感じて……」
SHIMAもセンラさんも、坂田が俺へ向ける思いと他の人への違いに、いち早く気づいていたのだろう。
坂田のことを昔から知っているからだろうか。
「……俺と坂田は、最初から体だけの関係にはなってません」
「…っえ!?」
驚いた顔をしたセンラさんが、声を上げてしまった口を慌てて塞ぐのを見て、俺は苦笑いをする。
「俺、仕事で色々あって…初めて会った坂田に、仕事の愚痴みたいなことを言っちゃったんです。そしたら坂田が、優しく慰めてくれて……だから、体の関係にはなったことありません」
「っえ、でも、よくうらたんの家行ってましたよね…?アイツ誤魔化してましたけど、うらたんの家行くんやな〜って何となく想像ついちゃって」
「えっと……一緒に、寝ただけです」
「……そうなんや……」
呆然としたセンラさんが、敬語も忘れるほど驚いているのを見て、そんなに坂田にとってはありえないことなんだな、と感じる。
「……そっか……だから…恋に発展できたんや…」
「……センラさん?」
諦めたように少し笑いながら下を向くセンラさんを見て、不思議に思って声をかけると、なんでもないです、と首を振られた。
「すみません、急にこんなプライベートな話…」
「…いえ、全然。俺も、今でも信じられないくらいなんで…」
坂田の笑顔を思い出して、思わず小さく微笑むと、それを見ていたのか、センラさんが笑った。
「…幸せ、ですか?」
「……はい。幸せです」
まっすぐセンラさんの顔を見て言うと、センラさんが眉を下げて優しく微笑んだ。
その顔が、とても切なく悲しげに見えたのは、俺の気の所為だろうか。
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side:センラ
時刻は深夜24時半。
この時間に『CREW』は営業時間を終える。
予約されている人の時間が終わってから帰るため、メンバーそれぞれで帰る時間は異なる。
アフターなどが入れば、もっと帰る時間に差が出る設定となっているのだ。
簡単に言えば、指名される人数が多ければ多いほど、帰る時間が遅くなる。
24時まで営業するBARの仕事を終えた坂田が、受付の手伝いに回ろうとしてきたので、うらたんと一緒に帰れと無理やり帰らせた。
明日も仕事だといううらたんが、BARを終えた坂田の顔を見たら帰る、と言っていたので、彼氏なら送ってけ、と言って坂田を店から出したのだ。
優しい坂田もうらたんも俺を心配してくれたが、坂田がNo.2の時は俺一人で全てやっていたのだ。
今更そんな心配されることなどない、と言って笑うと、安心したように2人が笑った。
あの2人の雰囲気は、どこか似ているところがある。
嬉しそうに笑う坂田と、そんな坂田を見て照れくさそうにそっぽを向くうらたん。
その後ろ姿を見ながら、俺はふと志麻くんを思い浮かぶ。
(……俺も志麻くんと、あんな風になりたかったな)
俺は、志麻くんのことが好きだ。
ずっと、ずっと前から、志麻くんだけが好き。
幼い頃、両親が仕事で遅くまで帰ってこなくて、家でひとりぼっちだった俺を、いつも笑って守ってくれた。
俺の、だいすきな人で、初恋の人。
志麻くんを好きな俺は何度も頭の中で、志麻くんと恋人同士の俺を想像した。
想像した時の俺の顔は、とても幸せそうで。
いつかこんな風になれたら、なんて思ってた。
でもそんな夢みたいなことは、一生叶わない。
たとえどんなに俺が 神に願っても
ガチャ、と奥の扉が開いたと思えば、いつものように白のバスローブを着た志麻くんが、髪の毛を乾かした状態で姿を現した。
髪質を気にするようになった坂田に、半ば強制されるようにドライヤーを使わされていた志麻くんは、半年も経つと、当たり前のように髪を乾かしてくるようになった。
「…SHIMA、お疲れ様」
SHIMA、と店での名前で呼ぶと、ゆっくりと志麻くんの瞳が俺を映す。
冷たく、鋭い目。
少し距離があるのに、目で殺されそうになるほどの殺気に、俺は息を飲んだ。
「………ん」
目が合ったのはほんの数秒で、でもすごく長く感じた。
いつものように一つ返事で目線を逸らしてスマホを確認し始めた志麻くんに、俺は下を向くしかなかった。
俺と志麻くんは、このお店『CREW』に入ってから、ずっと微妙な関係のままだ。
何故か、と言われても、俺もよく分からない。
『CREW』が繁盛していく中で、俺は志麻くんと話す時間が無くなり、すれ違う時間が増えて、いつの間にか志麻くんと話さなくなった。
でも、なんで志麻くんにそんな目で見られるのか、他人のような態度を向けられるのか、俺も理由が見つからなかった。
最初は俺が何かしたのだろうと思って、志麻くんへひとまず謝ろうとすると、
『…なんも分かってへんのに謝んのおかしない?別に怒ってるわけやないし、謝られても困るわ』
と正論をかまされてしまった。
俺に対してはそんな態度でも、坂田と3人で居る時は、いつもの志麻くんで居てくれる。
話しかけられることも話すこともないが、坂田が居てくれるだけで、俺は志麻くんと繋がっていると感じることができるのだ。
このことは坂田にも、何回か相談に乗ってもらったことがある。
坂田だけには、俺が志麻くんへ想いを寄せていることを伝えていたのだ。
どれだけ鈍感なアイツでも、さすがに志麻くんと俺の雰囲気は感じ取っていたようで、『あんま深く思いつめんなよ、なんかあったらいつでも相談してええから』と頭を撫でられた時には、こいつイケメンすぎやろ、と少し泣きそうになった記憶がある。
でもそんな志麻くんが、ひとつだけ俺との関係を繋いでくれるものがあった。
「……センラ」
志麻くんに名前を呼ばれて、顔を上げると、さっきまでスマホを確認していた志麻くんが俺をまた見つめていた。
「…………部屋」
そう言い残して背中を向けて歩き出す志麻くんに、俺はキュッと胸が苦しくなる。
志麻くんを長く待たせないよう、急いで受付の後片付けをして部屋へ向かう。
今日はあいにくの雨であり、窓の外からは雨の音が鳴り響いている。
季節は4月下旬。最近では、テレビで雨予報を見ることが多くなった。
そんな雨の日に、志麻くんは俺の名前を呼ぶ。
ガチャ、と音を立てて部屋へ入ると、奥のシャワー室から音がする。
靴を脱いでそのシャワー室に入ると、さっきまで着ていたバスローブは脱がれていて、頭からシャワーを浴びている志麻くんの背中が晒されていた。
その背中を確認すると、俺はゆっくりと自分の服を脱いで、志麻くんの肩を人差し指でトントンと叩く。
振り返る志麻くんの顔が見える前に、引き寄せられて唇を奪われた。
「ん、っ」
舌が差し出されると、それを受け入れるように口を開ける。
ぬる、と熱い舌が入ってきて、俺の唾液を舐めとるように口内を弄られる。
キスをされながらシャワーヘッドの方の壁にドン、と音を立てて勢いよく押し付けられ、志麻くんの両肘が俺の顔の横に置かれたため、逃げられない状態を作られた。
「んっ、…ふ………しま、く……っん…」
ザァ、とシャワーの音が響く中、俺はキスの中で志麻くんの名前を呼ぶ。
それを無視するかのように、何も身にまとっていない無防備な俺の体を触り始める。
その手が、とても熱くて。
その熱さにほ、と息を零すと、志麻くんの首に控えめに腕を回した。
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‥‥‥‥
「……っ……い、ぁ……っ……ぃ、く……ッ…!!」
志麻くんからの刺激に熱を放つと、俺の中で志麻くんもゴム越しに欲を放ったのが分かった。
壁に押し付けられた状態で両足を抱えあげられ、志麻くんにしがみつくしかなかった体勢で、俺ははぁ、はぁ、と息を整える。
ズル、と俺の中から自身のを抜き出した志麻くんが、ゆっくりと俺を床に下ろすと、慣れた手つきで事後処理をして、しばらく俺の息が収まるのを屈んだ状態で黙って待っていた。
「……は……っは………」
「…………………」
「……っしま、く……も……大丈夫…やから……」
「…………………」
「……大丈夫…やから。な…?」
ゆっくりと息を吐いたあと、志麻くんの顔を見てふわりと微笑むと、黙っていた志麻くんが俺の背中に腕を回して優しく抱きしめた。
しばらく抱きしめた後、ぽん、ぽん、と2回。
まるで子供をあやすかのように叩いた後、ゆっくりと立ち上がってシャワー室から姿を消した。
ガチャン、と少し遠くの扉が閉まる音がして、この部屋から出ていったんだ、と分かると、俺はその床にうずくまった。
「………っ………は………っ…」
思わず泣きそうになり、震えた唇から息が漏れるのを必死に唇を噛んで抑える。
雨が降る日、雷のある日。
その日、俺が志麻くんに、このシャワー室で抱かれる。
万が一声が誰かに聞こえてしまわないよう、シャワーを流しながら。
雷と雨がある日以外、志麻くんは俺を抱くことはない。
『CREW』に入って、微妙な関係が俺と志麻くんの間にできてから、志麻くんは俺を抱くようになった。
初めて志麻くんに抱かれた時は訳もわからず、されるがままに犯された、というような感じだった。
慣れない痛みと圧迫感に、快感などは全く感じなかった。
でも、それでも、志麻くんが俺の体で欲を放ってくれたことが嬉しくて、俺は必死に志麻くんの体を受け入れた。
俺の体でも、志麻くんは感じてくれる。
俺の体を、使ってくれる。
それが本当に嬉しくて、愛も何もないこの行為に、俺の体は素直に喜んだ。
それからずっと、俺は志麻くんと体を重ねる関係が続いている。
シャワーのお湯が俺の頭を流れ続け、まるで冷静になれ、と言われているような気分になってきた。
俺は何度も、志麻くんと話をしようとした。
志麻くんは、どうして俺を抱くのか。
志麻くんは俺のこと、どう思っているのか。
でも話をしてしまったら、志麻くんは俺を二度と抱いてくれなくなるかもしれない、と思うと、俺は何も言うことができなかった。
俺は、志麻くんが好き。
でも志麻くんはきっと、俺のことなど眼中にもないのだろう。
ただの幼馴染みで、ただの性処理の相手。
たくさん居る中の、1人。
そんな俺は、きっと坂田にも、つい半年前に出会ったうらたんにも、SHIMAの客として幸せそうに志麻くんの元へやってくる加島さんにも及ばない。
でも、志麻くんが俺の体を求めてくれる雨の日、この一瞬のひとときだけ、志麻くんの眼は俺を映してくれる。
俺の名前を呼んでくれる。
俺の体を満たしてくれる。
そして行為が終わったあと、志麻くんは必ず俺を抱きしめる。
ほんの数秒にも満たないが、その手つきは、昔、暗い中ひとりぼっちだった俺を抱きしめてくれた時と変わらなくて。
優しくて、あったかくて。
その手の温かさを感じて、俺は志麻くんをまた好きになる。
だから俺は、この関係を壊すことができない。
志麻くんが俺の身体を求めてくれるなら、俺はいつだって差し出すから。
だから、だから。
俺を見捨てないで。
この一瞬だけでも、志麻くんのそばにいさせて。
その思いは、頭の上から流れるシャワーによって、ただただ流れ落ちるだけだった。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
『__ら……んら……センラ、見ろこれ!!』
遠くから声が聞こえると思えば、急に映像が映し出されるように、志麻くんの顔が映る。
2歳年上の、大好きな、大好きな志麻くんの顔。
『なぁにー?』
『見ろよこれ、四つ葉のクローバーだ!』
『えっほんとにー!?』
志麻くんの言葉に、緑の広がった公園の芝生をじっと見つめていた僕は立ち上がって、志麻くんのもとへ走った。
『見ろ!よっつ、あるやろー?』
『ほんとだ、志麻くんすごーい!ぼく、みっつのしかみつからなかったのに…』
そう言って、僕は手のひらに潰れないように優しく掴んでいた、大きな三つ葉を志麻くんに見せる。
『すげぇセンラ!それ、めっちゃでけぇ!』
『でも、よっつのほうがすごいんでしょ…?みっつじゃ、お願い叶わないんでしょ…?』
俯いて、四つ葉のクローバーが全然見つからないことが悔しくて悲しくて、思わず涙が目に溜まる。
それを優しく親指で拭いとった志麻くんに、頭を撫でられる。
驚いて上を向くと、コツンと額同士がくっついて、至近距離でニカッと太陽のように笑った志麻くんに、僕は頬が熱くなった感じがした。
『…なあ、これ、俺にくれよ。俺が見つけた四つ葉、センラにあげるから』
『え…?でもぼくのやつ、お願い叶わないよ…?』
『…いいんだよ。俺はこれが欲しいの!』
そう笑った志麻くんに、僕は掴んでいた三つ葉を志麻くんに渡した。
代わりに四つ葉のクローバーを志麻くんに貰うと、ぽかぽかと心が暖かくなる気持ちがする。
『センラ、何お願いごとするんだ?』
『………ん〜…ないしょ!』
『え、なんでだよー?』
『志麻くんには教えなーい!』
『えー気になるやん〜!』
クスクスと笑いながら、僕の頭を優しく撫でてくれる。
その暖かい手を感じながら、僕は志麻くんから貰った四つ葉のクローバーを見つめた。
その後ちら、と志麻くんを見ると、僕の視線に気づいた志麻くんが、目を細めて微笑んだ後、センラ、と優しく名前を呼ばれた。
『お願い、叶うとええな』
『………うん…!』
ぼくね。志麻くんが、だいすき。
頭を撫でてくれる、その手がだいすき。
いつもそばに居てくれて、笑ってくれて。
『センラ』って、優しく呼んでくれる志麻くんがだいすき。
だからね、志麻くん。
“志麻くんがずっと、_______”
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
「……ん……らさん……センラさん」
体を揺すられ、自分の名前を呼ぶ声に、うっすらと目を開ける。
視界が急に明るくなり、ズキン、と頭が鈍く痛む。
二日酔いの頭の痛さとよく似ているものを感じた。
「あ、起きましたか…?」
ふわふわとした、まだ覚めない頭を動かすと、見覚えのある顔が映った。
その姿を目に映しながら、パチパチと何度も瞬きをして、やがて勢いよく飛び上がる。
「っえ、うらたん…!?」
「おはようございます、センラさん」
「っぇ、な、え?なんで」
「…覚えてませんか?ここ、坂田の家です」
うらたんの言葉に辺りを見渡すと、俺の家と同じ部屋の配置と、何度も訪れたことのある、見慣れた坂田の家具が映る。
その部屋を見て、だんだんと記憶が蘇ってきた。
俺と坂田とうらたんは、昨夜坂田の部屋でプチ飲み会をしていたのだ。
坂田は毎年この時期、雨が降ることが多くなる季節に、よく俺を部屋に招き入れて飲みに誘う。
原因は多分、俺が志麻くんのことを考えてどこか浮かない顔をしているからであろう。
気をつけようと気を引き締めても、坂田の顔を見るとどこか気が緩んでしまうらしい。
今日も坂田に呼び出され、自分の家に荷物を置いて2個隣にある坂田の家に入ると、美味しそうな匂いがした。
坂田が何か頼んでくれたんかな、なんて思いながら部屋に入ると、私服姿のうらたんが居たのだ。
明日仕事の午前休が取れたから、夕飯を一緒に食べる約束をしていたらしい。
俺はそれを聞いて、呑気にうらたんの後ろで料理の手伝いをしている坂田の頭を叩いた。
『っったぁ!?!なんやねんセンラ!!!』
『なんやねんちゃうわ!!!うらたん来とんのに俺を誘うなや!!俺邪魔すぎやろ!!』
『ちょ、大丈夫ですから…!!センラさん来るって坂田から連絡は貰ってたし』
慌てて仲介に入るうらたんだが、俺はその奥にいる坂田を睨み続ける。
『センラさんも一緒に食べましょ。おつまみ多めに作りましたし、坂田からよく話聞くセンラさんと、俺もお酒飲みたいです』
小さく笑ううらたんを見て、俺はその答えを受け入れる以外の選択肢は無かった。
ええ人すぎやろ、坂田には勿体なさすぎる。
『はぁぁ……ほんま、今後何か坂田にされたら言ってくださいね、コイツぶん殴りますんで』
『んなっ、そんなんせんって!!』
『お願いします』
『え、ちょ、うらさん!!?』
『っふは、うるせぇ、冗談だっつの』
慌ててうらたんの顔を見る坂田を見て、いたずらっぽく笑って表情が柔らかくなるうらたん。
そんな初めて見るうらたんの顔を見て、坂田の前ではそんな崩した顔するんやなぁ、と改めて2人の関係を思い知らされた。
やっぱり俺邪魔なんやないか?と思いながらも、酒を一杯飲み終わる頃には、3人の中で誰よりもはしゃいでいた気がする。
全てを思い出した俺は、サァ、と血の気が引くのが分かる。
外を見ると、既に明るくなっていた。
「…………今、何時ですか…?」
「朝の6時過ぎです。今日も仕事ですよね?坂田もさっき起きて、今顔洗いに行ってます」
「えっ待ってください……俺、ずっとここで寝てました…?」
「?はい、気持ちよさそうに寝てましたよ」
(…なんっっつうことを………!!!!!!)
勢いよく頭を抱える俺を見て、うらたんが不思議そうに首を傾げる。
せっかくのうらたんと坂田との時間を、台無しにしてしまった。
おそらく俺がいるせいで、2人は何も出来ていないだろう。
俺のうっすらとした記憶の中で、俺に押し付けられた酒を飲んで、坂田もかなり酔っていた気がする。
アイツは一定以上の酒を飲むと、酔ってすぐに寝てしまうから、あんなに汚くしてしまった部屋が今綺麗になっているのは、おそらくうらたんが掃除してくれたのだろう。
迷惑どころの騒ぎではない、今すぐ腹を切ってお詫びするレベルだ。
うぅ、と唸っていると、うらたんに優しい表情を向けられる。
「…クローバー、好きなんですか?」
「……え?」
「寝言で、クローバーって言ってるのが聞こえて」
「………俺、寝言言っちゃってました…?」
「はい。志麻くん、とも言ってたので、夢の中でSHIMAさんとクローバー探してたのかなって」
「っえ…!?!」
優しい表情をするうらたんの顔を見て、俺はじわじわと顔が熱くなるのが分かる。
「…す、すみません………ほんと、何から何まで…」
「いやいや、そんなことないです」
「…………えと…坂田から聞いてるかもしれないんですけど…俺と志麻くん、幼なじみで………小さい頃、俺、親が仕事で夜遅くまで帰ってこなくて。その代わりに、近所に住んでた志麻くんが、ずっとそばに居てくれてたんです」
ポツリ、と言葉を零すと、さっきの夢の中の記憶が蘇ってきて、思わず口元が緩んでしまう。
そして、ズボンのポケットの中から、あるものを取り出した。
いつも肌身離さず持ち歩いている、大切なお守りだった。
「……それは?」
「えっと……志麻くんから貰った、四つ葉のクローバーを押し花にしたやつです。ケースに入れて、そのケースをお守りに入れて持ち歩いてるんです」
紐を引っ張って、お守りの中に入れてある透明のケースを取り出す。
そのケースの中の四つ葉のクローバーを見ると、あの頃に戻ったみたいに、ふわふわとした温かい気持ちになる。
「……この紙は?」
透明のケースに、四つ葉のクローバーと一緒に入れてある紙を見て、うらたんが尋ねてくる。
俺はケースを開けて、その紙を照れくさくなりながらもうらたんに渡した。
「……紙にも書いて願ったら…2倍になるんじゃないかって思って…志麻くんから貰ったその日の夜、自分で書いたんです。今となっては結構まじで恥ずかしいんですけど」
うらたんがその紙の内容を見ると、クスリと優しく微笑んだ。
それを見た俺は、うらたんに紙を渡してしまったことを少し後悔する。
これは結構、なかなか恥ずかしい。
「す、すみません急にこんな…!!!」
「ふ、いえ。見せてくれてありがとうございます」
「……馬鹿ですよね、俺…こんなん願って」
「そんなことない、素敵な願い事だと思います。SHIMAさんのこと、本当に大切に思ってるのが伝わってきます」
「…………」
「…大丈夫。絶対叶いますよ、センラさんの願い」
うらたんの言葉に、驚いた俺は思わずうらたんの顔を見る。
優しく微笑んだうらたんの顔に、俺はこれを坂田に見せた時の坂田の顔を思い出した。
『…センラの願い、絶対叶うよ。いや、もう叶ってるかもなぁ』
『え?いや、叶って……る、のか?』
叶っているのかいないのか分からない顔をすると、ふは、と笑った坂田が、俺の頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でた。
『…お前は、そのままでいてくれればええんよ』
そう言って意味深く笑った坂田の顔を、未だによく覚えている。
「それに……少し、ほっこりしました。センラさんのにも、SHIMAさんのにも」
「…?志麻くんの…?」
「……いえ、なんでもないです」
何かを隠すように微笑むうらたんを、坂田の時と同様に不思議に思う。
だが坂田が洗面所から帰ってきたのを見て、俺は昨夜自分がおかしてしまった過ちを思い出し、2人に勢いよく土下座をした。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
side:浦田
「…ふぅ…………」
時刻は、22時過ぎ。
新年度になり、新たな後輩が増える中、先輩の役目だった後輩の世話役を任せられたり、外回りや仕事が以前よりもかなり多く回ってくるせいで、俺は疲れが溜まっていた。
仕事は大変だが、以前よりも仕事の立ち回りは早くなったと思う。
それに、自分の教えで人が伸びていく姿を見るのはそれなりに気分がよかった。
加島には『辛さ7、甘さ3の先輩』なんて茶化されたが、その頭にはすかさずげんこつを入れてやった。
椅子に座りながら、ぐい、と背伸びをすると、伸ばした手にコツン、と温かいものが当たる。
振り返ると、コーヒー缶を2つ持った加島が笑って立っていた。
「おつかれ。ほい、コーヒー」
「……ん、さんきゅ」
「今なにやってんの?」
隣にある加島の椅子に座る。
今年度から机の配置が変わり、偶然に加島が俺の隣になったのだ。
その配置を見た加島が満面の笑みで抱きついてきて、それを思い切り突き放したのを覚えている。
「……仕事の今後の予定とか、どう仕事削っていけばいいのかとか、ざっくりしたもの」
「……甘さ3から、4に繰り上げかなぁ?」
「うるせぇ、先に言っといた方が後が楽なんだよ」
「そんなこと言って、この前も失敗してた後輩のサポートしてたくせに〜」
「…お前もそれ手伝いに来ただろ」
「…それは、お前があの日、AKIRAさんとの用事あるはずなのに、お前がサポートに回ったの見て呆れてたからですぅ〜…」
ボソボソと照れくさそうにそっぽを向く加島を見て、ふ、と息を零す。
なんだかんだ言って、コイツは頼りになるやつだ。
加島が居なかったら、今俺はこんな生活を送れていない。
以前加島がしてくれたことを思い浮かべながら、俺は加島から貰ったコーヒーを一口飲んだ。
「AKIRAさん、家に来るんじゃないの?明日、お前も休みだろ?」
隣で資料を引き出しから出しながら加島が言う。
そう、俺と加島は、有給消化のために明日一日休みを貰っているのだ。
「……あっち、24時で終わるから」
「…へぇ〜、だからまだ残ってんのか」
「うっせ、ニヤニヤすんな」
「へへ、いや、嬉しいなぁって思って」
ちら、と加島の顔を見ると、言葉の通り幸せそうな顔をして俺を見ていた。
「俺、今の浦田だいすき!」
「………そーかよ」
「ん!!」
満面の笑顔で頷くコイツの素直さに、俺は毎回少し尊敬する。
こんなに簡単に人に向かって好意の言葉を向けることができる人は、なかなか居ないだろう。
「…お前も、今日早く上がるって言ってたじゃねぇか」
「ん?…あぁ、浦田が残るんだったら、俺も一緒に残ろうかなぁって。駅まで一緒に行きたいし」
それに……、と呟いた後、いきなり声が無くなる。加島の顔を見ると、頬をほんのりと赤く染めて俯いていた。
その顔で、俺は加島の言いたいことが何かを察す。
「お前もじゃねぇか」
「う、うるせぇ!早めに行っても迷惑かかるだけだし、ちょうどよかったんだよ!!」
「おい静かにしろ。一応まだ人居んぞ」
22時過ぎとはいえ、まだ数人デスクに向かっている人がいる。
慌てて口を抑える加島を見て、俺は呆れのため息をついた。
「………で?最近どうなんだよ」
「えっ」
俺の問いに、驚いたように声を上げる加島を、なんだよ、と睨みつける。
「いや、意外だなぁって。お前、あんまりSHIMAさんのこと聞いてこないから」
「お前が勝手に話すからな」
「っん"ん"……確かに……」
ゴホゴホと咳をして気まづそうに笑った加島が、やがて小声で話し始める。
「…べつに…どうってほどの進展もねぇよ。なんせ、SHIMAさんにとって俺はただの客だしなぁ」
「………告白、またしたのか」
「へへ、もう既に6回はした」
笑いながら言う加島に、俺は呆気に取られる。
「……どれもさ、俺なりに、真剣に告白したんだ。でも、『ありがとう』って笑うだけで、毎回上手いことはぐらかされちゃうんだ」
「…………」
「……それに…多分さ……あの人……」
そう言った後、口を閉じる加島を横目で見ながら、俺は次の言葉を待つ。
(…こいつ……………)
「………いや、なんでもねぇ」
ふぅ、と息を吐いた加島が、ニカッと笑って俺の背中を叩く。
「まぁま、俺のことは気にすんな!ちなみに今日も告ってくるぜ!!」
「…報告してくんな。あと気にしてねぇわ、調子乗んな」
「へへ〜ツンデレだな〜」
「…その資料シュレッダーかけんぞ」
「うわぁあ勘弁勘弁!!!」
目の前にあるシュレッダーを見ながら言うと、慌てた加島が資料を守るように抱きしめる。
うっせ、と言ってパソコンに目を向けると、さっきと同じように加島が口元に手を当てた。
「……そういう浦田はなんかないの、悩みとか」
AKIRAさんも一応SENRAさんと同じ位置にいるわけだし、『CREW』に居るじゃん、と言った加島に、俺は黙り込む。
「まぁ今日も会うくらいなんだから、ラブラブで円満だよな〜。いいな〜羨ましいぜ」
嬉しそうに笑った加島が、よし、と意気込むように声を上げたあと、黙々と作業をし始めた。
コイツが集中すると、体を叩かないと声にも気づかない。
そんな加島からパソコンに目を移しながら、俺は坂田のことを思い浮かべた。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
ガチャ、と音を立てて家の扉を開けると、リビングから足音が近づいてくる。
その音に思わずふ、と口が緩んでしまうのがわかった。
「うらさんっ、おかえりー!」
「わっ…!ちょ、あぶねぇっつの」
「へへ、1週間ぶりのうらさんだぁ…」
「………っ…」
ぎゅうっと強く抱きしめられ、俺はおずおずと坂田の背中に手を回す。
それを感じた坂田が、俺の顔を覗き込んで近づいたのを、坂田の口に手を当てて止める。
「うぇ、なんでぇ」
「だめ、うがいしてねぇ」
「……ん、わかった」
頬を膨らませながらも素直に頷く坂田の顔を見て、可愛い、と思ったのはここだけの秘密だ。
洗面所に向かって、手洗いうがいをしていると、それをずっとドアの側から見てくる坂田の視線が痛い。
タオルで拭いたあと、ん、と照れくさくなりながら坂田に向かって手を広げると、ぱぁっと笑顔になって勢いよく抱きついてきた。
坂田の背中に手を回すと、頬に手を当てられ、上を向かせられる。
坂田と目が合うと、さっきまで可愛く犬のようだった大きな瞳が、スっと細められる。
その瞳にキュッと心が締め付けられるのを感じていると、唇が重なった。
「ん………」
一週間ぶりの、坂田とのキス。
2回ほど角度を変えて深く唇が触れるだけのキスを交わすと、ゆっくりと坂田の顔が離れた。
「…うらさん、おかえり」
「……ただいま」
返事をすると、坂田が嬉しそうに笑ってまた触れるだけのキスをする。
俺と坂田は今の通り、良い関係を築けている、とは思う。
お互い忙しい日々が続いて、一緒にいられる時間は相変わらず少ないが、一緒に居られる日はなるべく一緒に居たい、と言ってくれた坂田の言葉が嬉しくて、どちらかが休みになるとほぼ必ず2人の時間を過ごしている。
でも、たった一つ。
ただ一つだけ、俺には悩みがあるのだ。
遅めの夕飯を2人で食べ終え、『CREW』で既にお風呂に入った、と言った坂田の言葉で、俺は急いで風呂に入る準備をし始める。
慌て始めた俺に、『ゆっくりでええよ。ちゃんとお風呂浸かって疲れ落としてきてな?30分以内に上がってきたらもう一回入らせるからな!』と笑いながら優しくキスをした坂田は、本当に心臓に悪い。
いつも1人で入る時とは違い、念入りに頭や体を洗う。
今日こそはと期待に胸を躍らせ、後ろも念入りに準備してしまった。
お風呂に入って、ふぅ、と息をつく。
明日は、俺も一日休みで、そして坂田も一日休みが取れたと言っていた。
どうやら『CREW』は、人気が更に高まってきたのと、BARの営業も開始し、収入も安定してきたため、休業日を作ってもいいのではないか、というセンラさんからの提案が通ったらしい。
センラさんが営業をしているため、通ることは当たり前ではあるだろうが。
この数年間、休業日がなかった『CREW』のメンバーは、本当に大変だっただろう。
坂田も賛成し、SHIMAもいいんじゃないかと言っていたため、3人の言葉で他の全員が賛同したようだ。
『CREW』の休業日は、毎週火曜日。
月曜日は祝日も多くあり、土日の三連休で人が多く来てくれるため、火曜日になったらしい。
(……火曜日………)
ちゃぷん、とお湯がなびく音を出しながら、俺は膝を抱えて考え始める。
(……三連休で月曜が休みな日は…なるべく休みとりたいよな……)
手のひらをふわふわとした気持ちで眺めながら、そんなことを考える。
(………くそ、今回は加島の話で休みもらえたけど、あんまり取れねぇだろうな…)
今回の休みは、加島が上と話を通してやっとのことでもらった有給消化だ。
有給消化も簡単にさせてくれない自分の会社には心底呆れるが、加島のおかげで何とかこの会社に来ても、ちゃんと休みを貰うことができている。
加島の顔の広さと持ち前のコミュ力には、本当に感謝しかないと感じた。
(……加島に上手いこと言ってもらうか………)
グッと手のひらを強く握って、加島と相談してみよう、と考えた。
火曜日に休むことができたら。
そうしたら。それだったら。
(……そうしたら………坂田も……………って)
ふわふわと温まっていた頬を両手で強めに叩く。
(バカか俺は…!仕事が基本だろ!坂田は俺が休める日曜日に頑張って仕事してんのに、俺だけ呑気に仕事休むのはよくねぇ…!)
風呂の熱さと自分の欲深さで赤くなった頬を再度叩いて、俺は急いで風呂から出た。
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
「…あ!おかえり〜」
寝室で寝転がりながらスマホを見ていた坂田の声に、ん、と反応しながら、寝室の扉を閉じる。
「ちゃんと髪乾かしてきた?」
「…坂田じゃねぇからな」
「んなっ、今は俺もちゃんと乾かしてますー!」
口を膨らませる坂田にクスクスと笑って頭を撫でると、すぐに機嫌を良くして、俺の腕を引いて布団の中に引き入れた。
布団の中は、坂田の体温でなのか、心地良い温度になっていた。
「…へへ、うらさん来る前にあっためといた」
コツン、と額をくっつけると、嬉しそうに坂田が笑う。
坂田は、額をくっつけ合うのが好きらしい。
顔も近づいて、互いの温度が伝わってくるから、だそうだ。
頬を優しく撫でられ、俺はくすぐったさでピクンと体が反応する。
「……うらさん……」
(きた…!)
俺は、覚悟を決めてキュッと瞳を瞑る。
俺のただ一つの悩み。
それは、お互いの想いが重なったあの日から、坂田に一回も抱かれていないことだ。
仕事や時間の食い違いで、なかなか会えない日も多かった。
一緒に居られる日は、次の日にどちらかが仕事、ということが多かったから、一緒のベッドで寝ることしかできていない。
この前唯一あった俺の午前休の時も、もしかしたら、と少しの期待があったが、センラさんが来たため、その期待は泡となって消えた。
坂田と恋人同士になって、もうすぐで2ヶ月。
坂田は俺と付き合う前、『CREW』のNo.2で、毎日たくさんの人と体を重ねていた。
それはもう過去の話で、今では俺もあまり気にしていない。
でも、2ヶ月経っても一回も触れられないことに、俺は不安を抱かないわけがなかった。
たくさん触れたいし、触れてほしい。
そう思っているのは、俺だけなのかもしれない。
だから今回、休みが重なったことを知った時、俺は期待が膨れ上がった。
坂田も休みで、俺も休みだったら。
きっと、きっと坂田は、俺を抱いてくれる。
あの熱を、もう一回感じたい。
俺を、あの赤い瞳で、甘く溶かして欲しい。
ちゅ、と音を立ててキスをされ、俺は頬が熱くなるのを感じる。
優しく、愛おしそうに髪をとかされ、俺はキスをしながらふわふわと甘い気持ちになる。
ゆっくりと離れると、同じく甘い顔をした坂田が、ふわりと優しく微笑んだ。
「…おやすみ、うらさん」
俺はその言葉に、え、と声に出しそうになるのを抑える。
愛おしそうに頭を撫でられ、俺はどうすればいいのか分からなくなる。
もしかしたら、坂田に明日休みだと伝えていなかったのだろうか。
ただ単に忘れているのかもしれない。
曜日感覚がなくなっているのかもしれない。
「……っお、れ……明日……やすみ……」
「…ふへ、そうやなぁ。頑張ったなぁ、うらさん」
嬉しそうにへにゃ、と笑いながら更に頭を撫でられ、いつもなら嬉しい言葉にも、思わず泣きそうになってしまう。
ちがう、ちがうよさかた。
なんで、なんで俺を抱いてくれないの?
あの夜は、俺にとっては酷く幸せな夜でも、坂田にとってはそんなにだったのかもしれない。
俺の体は、坂田には物足りなかったのかもしれない。
俺の声に、気持ち悪いと思ったのかもしれない。
俺じゃ、ダメだった?
他の人の体の方が、気持ち良かった?
俺のことは、もう抱いてくれない?
もう、おれをすきじゃない?
溢れる気持ちは止まらなくて、坂田の胸に寄せられていた俺は、ポロポロと涙が流れる。
「……っ……………っぅ………」
「……うらさん…?」
胸から顔を離され、泣いている俺を見て、坂田が呆気に取られたように目を見開く。
「っえ、な、えっ?!うらさん?」
「…っぅう……っず……」
「っえ、え、どっか痛いん…?どうしたん…?」
心配そうに顔を覗き込まれ、流れる涙を優しく拭き取られる。
そんな坂田の顔を見て、俺は更に涙が溢れた。
「……っ…なんで……っ」
「……?」
「…っなんで…抱かねぇんだよ……っ」
「………へっ?」
俺の言葉に、ぽかんと口を開け間抜けた坂田の顔を見て、俺は坂田の腕から離れて座り、枕をギュッと抱きしめた。
「…っれの、俺の体、物足りなかった…っ?気持ちよくなかった…?」
「…うらさん…?」
「…っおれ、頑張るから…っさかたが、満足…できるように、いっぱい、がん、ばるから…っ」
「…っうらさん、聞いて」
腕を掴まれそうになったのを、俺は勢いよく払う。
「やだ…っい、やだ…っ…頑張るから…っ嫌いにならないで……っ」
ギュッと枕を強く抱きしめると、俺を覆い被さるように坂田に抱きしめられる。
その暖かさに、俺はきゅっと目を瞑った。
「……っ嫌いになるわけないやん…」
ぎゅうっと強く抱きしめられ、俺はまた涙がこぼれる。
「…ごめん、大事にしとったつもりなんに……全然うらさんの気持ち、分かってなかった」
腕の力を弱めた坂田が、俺の頭を優しくなだめるように撫でる。
「…俺、うらさんが大切で…壊したくなくて…だから、うらさんと一緒にいたり、寝たりしたとき、必死に襲いそうになるの耐えとった」
その言葉に、俺は目を見開いて坂田の顔を見る。
俺と目が合うと、坂田は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
「うらさん、いつも仕事頑張ってるし、疲れてるだろうからって…うらさんが寝たの確認した後、一人でしてたりとかしてた」
「っえ……ほん、と…?」
「ほんと……でも、ごめん。うらさんのこと不安にさせてるなんて思ってなくて」
「……っ……ん……」
「…でも、そうやんな。毎日色んな人とシてた奴が、全く触れてこないの、不安になるよな」
ごめんな、と苦しそうな顔が俯くのを見て、俺はその唇にキスをした。
すぐに離すと、目を見開いた坂田の顔を見て、クスリと笑みを零す。
「…っ俺のこと……抱きたかった…?」
「…っだき、たいに決まっとるやん…」
「…おれと、初めてしたとき…さかたのこと、気持ちよくできてた…?」
「…ん、すごい、良かったよ……あの時、すげえ緊張してたのと、両思いだったのが嬉しくて、俺理性抑えれへんかったから……うらさんのこと、負担にさせたかもってずっと思ってて…余計に手出せへんかった」
真っ赤になって話す坂田に、俺は嬉しくなって坂田に抱きつく。
わ、と驚いた声をあげながらも、しっかりと抱きしめてくれたその腕に、俺は口が緩むのを抑えられなかった。
「…さかた、すき」
「……っ」
「だいすき………っん…!」
唇を奪われ、熱い舌が入ってくる。
首に腕を回してそのキスを受け入れると、両脇に手を入れられ、ふわ、と体が浮く。
坂田の膝の上に乗せられ、腰を抱かれながらキスを続ける。
「…は……………っふは」
「…?何笑ってるん」
「さかた、俺からの好きって言葉、苦手だろ」
「っえ」
「俺が好きっていうと、毎回キスしてくる」
「〜〜ッ、だって…嬉しいやん……」
俺の肩に頭を押し付けてくる坂田が愛しくて、俺はその頭を包むように抱きしめる。
すると、いきなり視界が揺らぎ、気づいた時にはベッドで坂田の下敷きになっていた。
坂田を見上げると、雄の顔になった坂田の瞳が、俺の目と交わる。
「……止まれへんけど、いい?」
頬を壊れ物のように優しく撫でられ、俺も坂田の頬に両手を添える。
「……ん…抱いて……さかた……」
あの熱を、もういちど。
2ヶ月ぶりの、長い、長い夜。
‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
side:センラ
『…なぁ、センラ』
志麻くんの声。暗い視界が明るくなると、昔、まだそこまで繁盛していなかった時の『CREW』の店が瞳に映る。
まだ営業時間ではない『CREW』で、志麻くんと一緒に開店する準備をしていた時だった。
『なに?』
『…センラはさ、好きなやつとかいるん?』
『っえ…!!?』
志麻くんからの質問に、その時既に志麻くんへの思いを自覚していた俺は顔を赤くする。
それを見た志麻くんが、一瞬俺を見て固まったあと、ニヤッといたずらな笑みを浮かべる。
『へぇ、いるんや』
『ちがっ!いな、くはないけど!、!』
『…ふーん、俺の知ってる人?』
『………っ内緒…』
赤くなった顔を見られたくなくて、俺はそっぽを向いて止まっていた手を動かす。
『……し、まくんは……いるの……?』
心臓が飛び出そうになるほど、熱くて苦しい。
聞きたいのか聞きたくないのか分からなかった、ずっと気になっていた質問を、ついに志麻くんに言ってしまった。
『CREW』の店を始める、と志麻くんに言われた時、かなりの衝撃が走ったのを覚えている。
まさか志麻くんも、僕と同じで男の人を好きだとは思っていなかったのだ。
少なくとも俺は、男の人が好きというよりも、志麻くんが好きなだけだけど。
そこまではいいが、まさか体を使う仕事をする、という話を聞いて、俺も一緒にやりたいと無理やり『CREW』に入り込んだ。
それを知った志麻くんに猛反対され、結果的に営業や受付担当になってしまったのだ。
俺は志麻くんが他の人と体を繋げるのであれば、叶うことがないと思っていたこの思いを断ち切るために、俺も他人と体を繋げて気を紛らわせたかった。
なのに、志麻くんが体を露わにする姿を、受付の下に置いてある、それぞれの部屋の小さなモニターで監視する役になってしまったことに、俺は最初、嫉妬と悔しさと悲しさとが混じった黒い感情で、吐き気が止まらなかった覚えがある。
今でもその監視カメラを見ることは一度もできていない。
たとえ見るとしても、志麻くん以外のモニターしか見ることができなかった。
『……いるよ、好きな人』
その衝撃の言葉に、俺は熱い頬がスっと冷めていくのが分かる。
志麻くんの顔を、見ることができなかった。
『……そ、うなんや』
『……こんな気持ち、捨てられればええのにな』
『…相手……恋人とかいるん?』
震えそうな声を、なんとかグッと堪えて耐える。
ギュッと、震えた強く握り締めた。
『……いや、今はいなさそう』
『……じゃあ…』
『…でも、そいつ好きなやついるんやって』
その言葉に、志麻くんの顔を見る。
俯いている志麻くんの目の先には、多分きっと、想い人を思い浮かべているのだろう。
ちりちりと小さく燃えていて、今にでも消え入りそうな志麻くんの揺れた瞳を見て、俺は何も言うことができなかった。
『…あんな、太陽みたいに笑う奴。俺なんかじゃ届かへんよ』
はは、と笑って、手を動かし始める志麻くんの顔に、俺は言葉を飲み込む。
そんな、太陽みたいな人なんだ。
太陽みたいな志麻くんが、太陽って思うような人なんだ。
咄嗟に浮かんだ、俺じゃダメか、なんて言葉は、とても言う気にはなれなかった。
俺の思いは一生、叶わない。
たとえどんなに俺が、神に誓っても。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
side:加島
SHIMAさんとの時間が終わり、俺はベッドの端に腰をかけて水を飲む。
飲み終わってキャップを閉めると、SHIMAさんがスマホに目をやっているのが見えた。
「時間、やばいですか?」
「……え?」
「あ、いや…スマホ、気になるのかなって」
「……いや、大丈夫。ごめんね、心配させて」
ニッコリと笑うSHIMAさんに、俺はまた黙るしかなかった。
浦田への表情と明らかに違うその顔に、俺はいつも何も言うことができない。
今日の外は、雨が街を濡らしている。
かなりの大雨だ。俺がここに来る頃には、雷がごろごろと音を立て始めていた。
SHIMAさんは雨の日になると、少しだけ浮かない顔をする。
そしてよく雨の降る外を確認し、スマホを見つめる回数が多くなるのだ。
俺はそれを見て、少しだけ思うことがあった。
SHIMAさんは、きっとなにか、言えないような何かを抱えているのかもしれない、と。
俺が真剣に告白すると、さりげなく話を逸らされる。
でもその笑った顔が、どこかひどく悲しそうに見えて、俺はその表情が忘れられなかった。
「…SHIMAさん」
「んー?」
「俺、SHIMAさんが好きです」
「………」
まっすぐにSHIMAさんの瞳を見て言うと、その瞳が少し揺れて、逸らされる。
「…ほんま、物好きやなぁ」
「SHIMAさんがちゃんと返事くれるまで、俺は何回も言います」
「………」
「……でも何回言っても、SHIMAさんはきっと、俺を好きにならないです」
そう言うと、驚いたようにまた視線が交わる。
そのSHIMAさんの表情を見て、クスリと笑った。
「…自覚ないかもしれませんが、SHIMAさんは、言葉はきつくても、ちゃんと優しいって伝わってきます」
「…………」
「…俺を傷つけないように、告白の返事をはぐらかしてくれてるんですよね。俺の中に、SHIMAさんは悪い人だって刻みつけて」
「……………」
「…でもそれ……逆効果っすよ」
俺はSHIMAさんから視線を逸らして、ゆらゆらと揺れそうになった視界を力を入れて堪える。
「…もっと……好きになるから……」
「…………」
「…っはぁ、俺最初に言いましたよね!俺、男が好きだって自覚して、初めてここに来て、SHIMAさんを指名して、一目惚れして。ほんとは、こんなはずじゃなかったんですよ!俺だって、もっとこれから素敵な恋したいんスからね!!…だから」
大丈夫。
大丈夫だ、俺。
笑えてる。
ちゃんと、笑えてるから。
だから、言うんだ。言え。
これで、終わりにするんだ。
「…だから……っ……」
鼻がツン、と痛む。
まだダメだ。まだ、泣くな俺。
グッと手のひらに力を入れて、涙をこらえた後、またSHIMAさんの顔を見る。
俺の得意な、人懐っこい笑顔で。
「…っだから、早く俺を、振ってください!」
俺を、あなたの重荷にしたくない。
俺は嘘をつくのが下手だから。
容量はいいけど、後先考えずに行動しちゃう馬鹿だから。
すぐに折れて、甘えちゃうから。
でもそれをきっと、あなたは許してくれるから。
そんな不器用で優しいあなたへの想いが、きっとすぐに溢れちゃうから。
だから、今。
俺がやっと言えたこの言葉を、どうか受け入れて。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
雨が降り止まない中、俺は傘もささずに、一直線にある場所に走った。
全力で走ったのなんて、いつぶりだろう。
思い返してみると、仕事の帰り、浦田とAKIRAさんが遭遇したときだったな、なんて思い出して、ずっと走っていたその足を止める。
は、は、と息切れが止まないのと同時に、辿り着いたその場に入ることを躊躇った。
時刻はもう、日を過ぎている。
明日も仕事だ。引き返して帰った方がいい。
そう思ったにも関わらず、俺はその家のインターホンを押した。
「……はい……」
ガチャ、と扉が開くと、眠そうな顔をした家主が俺の顔を見て驚く。
「っえ、は?お前、どうしたんだよ…!?」
「……………」
「お前、傘もささずにここまで来たのかよ…!?雷も鳴って………っ…?」
浦田が俺の顔を覗き込むと、言葉が詰まったのが分かった。
俺はそんな浦田を見て、クスリと笑った。
「……俺、振られてきた!」
「……………」
「あーあ、もう10回目!もう諦めるって決めた!!SHIMAさんよりももっと魅力ある人なんてきっとたくさんいるし!俺まだピチピチの24歳だし!てかそもそも、この恋が叶うなんて思ってなかったし!」
「………加島」
「………っ……おもって……なかったし……っ」
ポロポロと溢れて止まらない涙を止めようと力を入れても、更に溢れるばかりで。
黙ったままの浦田に腕を引っぱられ、玄関に入れられる。
ドアが閉まると、浦田が俺を優しく抱きしめた。
「……っう、らた……?服、濡れちゃうよ…」
「いいから」
「…おれ……大丈夫だから…」
「大丈夫じゃねぇから、ここ来たんだろうが」
「……っ…でも、分かってたもん……SHIMAさんが俺をすきにならないなんて…っ分かってた…っ…!」
「でも、好きだったんだろ」
ぎゅっと優しく抱きしめられて、溶け込むように背中をぽん、ぽん、と叩かれる。
「……っほんとに……好きだったのかな…」
「………」
「…一目惚れだったし、SHIMAさん顔いいから…っ俺の、勘違いだったかもしれない…」
「ちげぇよ」
はっきりと否定され、俺は浦田の腕の中で目を見開く。
「…勘違いだったら、一回目の告白で終わってる」
「……っ」
「…お前は、ちゃんとSHIMAさんに恋してたよ。ちゃんと好きだったって、俺は知ってるから」
「……っぅあぁ……っ…」
な、うらた。
俺な、SHIMAさんの前で、一回も泣かなかったんだよ。
すごくね?あんなに涙脆い俺がだぜ?
SHIMAさんにはああやって言ったけど、俺は当分恋はできねぇかも。
この恋は随分と、濃いものだったから。
だからさ、しばらくはずっと、お前の横で馬鹿やってるの、許してくれよな。
俺は、お前の隣だと、なんでも出来る気がしてくるから。
笑ってそう言うと、浦田は『バカかよ』と言って笑ってくれた。
‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
side:センラ
季節は6月。
日本ではいわゆる、“梅雨”の時期だ。
毎年俺はこの時期になると、志麻くんと体を重ねる日が多くなる。
でも俺には一つ、先月からずっと考えていることがあった。
加島さんが、志麻くんに告白したらしい。
しかも、1回じゃない。
俺が知らなかっただけで、加島さんは既に何回も、志麻くんに告白しているのだと知った。
知ったきっかけは、定期的に来る加島さんが突然現れなくなったことを不思議に思って、坂田の家に行った時に偶然来ていたうらたんに尋ねた。
すると、少し気まづそうに笑ったうらたんが、そう教えてくれたのだ。
『…アイツ、SHIMAさんが自分を好きにならないって最初から分かってたのに、何回も告白してたんです』
『………』
『…ずっと無理して笑ってて、“SHIMAさんの前で泣かなかった俺偉いだろ?”なんて言ってきて』
ちょっとしたらすぐ号泣しましたけど、と言って笑ったうらたんの顔は、とても優しかった。
『……最初から無理って分かってんのに……何度も気持ち伝えられるの、すげぇなって。アイツには絶対言わねぇけど』
そのうらたんの言葉を、俺はずっと忘れることができなかった。
俺は、本当に今のままでいいのか。
志麻くんに何も言わないで、話すこともろくにできないままで。
志麻くんに恋人ができた時に、今の俺は『おめでとう』なんて言えるのかな。
笑えるかな。嬉しいのかな。
心を許した相手にだけ見せる、俺の大好きな志麻くんの笑顔を、その恋人にも向けるのだろう。
それを見た俺は、正気でいられるのかな。
「…んら!センラ!」
肩をぽん、と叩かれ、俺はハッと意識を戻す。
振り向くと、心配そうに俺の顔を覗き込む坂田の顔があった。
「お前、大丈夫か?今日ずっと上の空やで」
「……ごめ、大丈夫やから…」
また、心配をかけてしまっている。
笑って首を振ろうとすると、坂田の手が額に添えられた。
坂田の手が、ひんやりと冷たかった。
(…こいつ、体温高めなんに…今日めっちゃ冷たいな…)
「あっつ…!?センラ、熱あんでこれ!」
「………ねつ…?」
坂田の言葉を、頭の中で繰り返す。
自分に熱があると分かると、だるさや自身の体温の高さがじわじわと降り掛かってくる。
だが、まだ時刻は21時。
これからが本番だという時間に、坂田1人で任せるわけにはいかない。
「…だいじょーぶやから…」
「何言っとんねん…!もし俺が隣にいない時に倒れでもしたらどうするんや…!」
人はいないが、一応受付で2人一緒に立っているため、坂田が小声で話す。
俺は坂田の言葉にふるふると力なく首を振って、拒否を表す。
「ダメやセンラ、今日は早く帰って休め。ここは俺一人でやるから」
「…いやや……ほんとに、大丈夫やか「帰れや」
俺の言葉を遮る、聞き慣れた低い声。
振り向くと、奥の扉から出てきた志麻くんが、俺の顔を見て言っていた。
「帰れ。俺らにも客にも迷惑や、そんな受付人」
「……しまく…」
「自己管理もろくに出来ひんやつが、いっちょまえにそこに立ってんじゃねぇよ」
「…おいまーしー、その言い方はなくないか」
坂田がさっきの心配そうな声とは打って変わって、低い声で志麻くんのもとへ行こうとするのを、俺は力のない手で腕を掴んで止める。
「さかた、ええから……俺が悪いから…」
「……っでも」
「…分かってんならとっとと帰れや」
「……ん、ごめん」
志麻くんに笑って謝ると、少しだけ目を伏せた志麻くんが部屋の中に戻って行った。
「…ごめん坂田、帰るな」
「……送ってかなくて平気なん?」
「大丈夫やって。……受付に誰もおらんかったら、それこそ志麻くんに怒られてまう」
「……なんかあったら、いつでも電話してな。あと、家着いたら一応連絡して」
ぽんぽん、と背中を優しく叩いた坂田に、俺は小さく頷いた。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
「ゲホッ、ケホ…っぁあ、咳まで出てきた……」
家に着いてから、とりあえず坂田に連絡をして、服をスウェットとジャージに履き替えてベッドに横になる。
すると、かなり限界だったのか、自分の体に色々な症状が出始めた。
頭が痛くて、咳が出る。
寒気まで襲ってきて、俺は熱を測ることもできずに、布団に覆い被さった。
(……志麻くんに、飽きられちゃった…)
意識を朦朧とさせながら、俺は先程の出来事を思い出す。
あれは多分、志麻くんなりの優しさなのだろう、と言葉遣いで感じた。
志麻くんがああやって言ってくれなければ、多分俺は営業終了時間まで無理やりにでも『CREW』にいた。
そんな俺の我慢強さを知っているからこそ、あんな強い言葉で俺を突き放したんだ。
(……ほんま……やさしいなぁ……)
俺は志麻くんの優しさに、申し訳なさで胸がいっぱいになる。
俺は段々と眠気が襲ってきて、ゆっくり瞼を閉じると、あっという間に夢の世界へと落ちていった。
‥‥‥‥
‥‥‥
志麻くんはいつも、僕の隣にいてくれる。
『ふぇえ…っじまぐ……っ』
『大丈夫やで、ちゃんとおるで』
『あだまいだいよぉ……っ』
『痛いなぁ。センラがさっきちゃんと薬飲めたから、すぐ治るで』
『…っしま、く……っ』
熱が出た日。気持ちが沈んでいる日。
転んだ日。悲しいことがあった日。
特に熱が出た日は、僕は夢の中で嫌なことばかり考えて、泣いてしまうことが多かった。
でもそんな時も、志麻くんはいつでも僕のそばにいてくれる。
手を伸ばせば、必ず握ってくれる。
身を少し寄せれば、抱き締めて背中を撫でてくれる。
頭を預ければ、優しく頭を撫でてくれる。
だいすき。志麻くんが、だいすき。
だから、どこにも行かないで。
志麻くんがいないと、不安なの。
僕のそばにいて。
僕から離れていかないで。
まだ志麻くんを、好きでいさせて。
「……っ……く……しまく………」
志麻くん、志麻くん。
そんな時、まだ覚めない意識の中で、ふわ、と何かが俺の頭を撫でた気がした。
頭を撫でて、流れるように頬に移す。
親指で頬をさすられ、涙が拭うように目尻に添えられた。
俺は、この手を知ってる。
その手のひらに猫のように頬を擦り寄せると、それを受け入れるかのように頬を撫でてくれた。
重い瞼をゆっくりと開けようとすると、大きな手のひらで目元を隠される。
その手は、坂田と一緒でひんやりと心地よくて、でも暖かい、柔らかくて厚みのある手だった。
手を当てられたことで、暗くなった視界にまた眠気が襲ってくる。
すると、額に何か柔らかいものが触れたような気がした。
その後も、俺は大きな手のひらで目元を隠されたまま、何度も額に柔らかい感触や、頬を撫でられる感触を感じて、不安だった感情が溶けるように、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
ねえ、志麻くん。
俺、やっぱり志麻くんが好きだよ。
俺だけの志麻くんでいてほしい。
志麻くんが他の人のものになるなんて嫌だ。
無理だとわかっていても、俺も、加島さんみたいに。
志麻くんに、俺の気持ちを知ってほしい。
俺はその手の温もりを感じながら、もう一度深い眠りに落ちた。
「……ん…………」
ゆっくりと瞼を開けて起き上がると、さっきよりもだいぶ体が軽くなっていた。
額に触れると、ぬるくなった熱さまシートが張り付いていた。
辺りを見渡すと、近くにあった机の上に、栄養ドリンクとゼリー、市販の風邪薬まで置いてあった。
あの手は、多分きっと。
俺は頬に手を当てながら、遠い意識の中で感じた心地良い手の熱を思い出して、少しだけ泣きそうになった。
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
「…お、センラ〜!もう大丈夫なん?」
「坂田………ん。ありがとうなぁ、ほんま」
今日は、『CREW』の定休日である火曜日。
かなり長い時間寝ていたようで、起きた時には既に昼だった。
昼食を何か作らなければ、とベッドから体を起こすと、坂田が寝室に入ってきた。
「いっぱい色んなもの買ってきたでー!見てこのおつまみ!センラ好きそうやなって思って!」
「病み上がりの相手に酒のつまみ買ってくるやつとか普通おらんやろ」
「ふは、確かにそうやな!飲めへんよなさすがに!」
病み上がりでもしっかりと坂田のツッコミ役に回らなければならないことに呆れてしまう。
でもコイツの笑顔を見て、俺は少しだけ心が落ち着いたのを感じた。
「……なぁ、さかた」
「んー?」
「…これ、さかたが?」
ベッドの端に座ってガサガサと袋の音を立てて中を漁っていた坂田に、机の上にあった薬やゼリーを指さして問う。
「ちげーよ?センラ、自分で買ったんやないの?」
「………そっ、か」
「…まさかセンラ、記憶飛んだんとちゃうか?」
「ちゃうわ!!」
変な心配をする坂田に華麗にツッコミを入れた後、もう1回ゼリーの方へと視線を移す。
(…じゃあやっぱり、志麻くんが)
そう確信した後、俺はずっと考えていた一つの覚悟を、踏み出したいと思った。
「……さかた」
「ん?」
「俺、志麻くんに告白する」
きゅ、と手を膝の上で強く握りしめて言う。
何も言わない坂田に不思議に思って坂田を見ると、ポカンと呆気に取られたように口を開けていた。
「……え、おま、え」
「………ずっと、この関係が終わるのが嫌やって思ってた。俺が告白したら、きっと今みたいに、一緒にいることすら許して貰えんくなるかもしれへん。それに、前の幼なじみの関係にも戻れへんと思ったから」
「…………」
「……でも…俺、志麻くんに、俺の気持ちちゃんと、分かってほしいって、最近思うようになって」
「…………」
「…さかた?」
何も反応せずに無言で固まっている坂田を恐る恐る見ると、俺と目が合った途端ワナワナと震え始めた。
「……っ…なんかおれ、めっちゃ泣きそう」
「…はぁっ!?なん、え」
「…っ、センラ!!!」
肩を強く掴んで大声で名前を呼ぶ坂田に、俺はビクッと体を跳ねさせる。
「まーしーに、驚いた顔させてやろうな!!」
坂田の言葉は、『大丈夫』でも『頑張って』でもなく。
いたずらっ子のような笑顔で、そんなことを言ってきた。
「……ふは、ほんま、お前らしいわ」
「え?」
「なんでもあらへん」
坂田に伝えたことで、心無しか気持ちが軽くなった気がした。
坂田がいれば、どんな結果になったとしても、志麻くんも俺も崩れ落ちてしまうことは無いだろう。
坂田は俺にとっても、志麻くんにとっても、大切な存在だから。
「さかた」
「…?」
「ほんまにお前、かっこええわ。俺結構好きやで」
「………やっぱり昨日記憶全部飛んだんとちゃう?」
「ふは、飛んでへんわアホ!!」
このボケは、坂田の最大の照れ隠し。
やっぱりお前は、いちばんかっこええよ。
俺の自慢のヒーローや。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
時刻は、もうすぐ21時を回る。
俺の心臓は、もう今にも飛び出るんじゃないかと思うほどに鳴っている。
志麻くんを、俺の家に呼び出した。
坂田の家に行って3人で飲む、とかは数回やったことがあるが、自分の家に志麻くんだけを呼び出すのはこの家に来て以来初めてのことだった。
3人の鍵はそれぞれ合鍵を作って渡しているため、誰の家にも自由に入ることが出来る。
そんな家の中で、俺は一人何をすればいいのか分からず、興味もないテレビ番組を見たり、『CREW』の資料まとめなどをしていたが、どれも集中できることはなかった。
志麻くんには、「話したいことがあるから、21時に俺の部屋に来て欲しい」とメッセージを送った。
しばらくして既読が着いたため、志麻くんはきっと21時に俺の部屋に来てくれるだろう。
基本志麻くんは俺のメッセージに既読だけつける人だが、俺は既読がつくだけでも有難く思えるほどだった。
(落ち着け……俺……!)
手のひらの中には、いつも肌身離さず持ち歩いていた、あのお守りを忍ばせていた。
ふぅ、と一度深呼吸をするが、ガチャ、と玄関のドアが開く音がして、俺の鼓動は更に高まってしまった。
さっきまでソファに座ってお茶を飲んでいたが、俺は不自然にも両足をしっかり閉じて残っていたお茶を一気飲みする。
リビングのドアが開く音がして、ゆっくりと振り向くと、私服姿の志麻くんが居た。
その手には、コンビニの袋が握られていた。
「っぁ、志麻くん…」
「……………」
無言で歩いてくる志麻くんに、俺は緊張で目が回りそうになる。
体が火照ってきた。
顔も絶対に赤くなっているだろう。
俺のソファの隣に、一人分ほど距離を開けて座った志麻くんが、ソファの前にある机にコンビニの袋を置いた。
「………体調は?」
「へっ」
「治ったんか」
「あっ、う、うん…もう平気…」
「……そ」
俺が平気だと伝えると、少しだけ緊張を解いたように息を吐いたのが分かった。
コンビニ袋に目を向けると、中には朝置いてあったのと同じ栄養ドリンクと、熱さまシートの箱が入っていた。
俺はそれを見て、思わず泣きそうになる。
だめだ。
もう隠すことなんてできない。
俺は、志麻くんが好きだ。
「…っ、志麻くん…!!」
体制を変えて、志麻くんと向き合うようにして声を上げると、いきなりの声にビクッと肩を震わせた志麻くんが、驚いた顔をして俺を見る。
こんなにまっすぐに、志麻くんの顔を見たのはいつぶりだろう。
ずっと、俺は志麻くんを見ていたと思っていた。
けれど本当は、志麻くんの本当の姿を見ることを、俺は避けていたんじゃないか、なんて今になって思ってしまった。
「俺、志麻くんが好きです」
ついに、言ってしまった。
それを聞いていた志麻くんの瞳が、だんだんと大きくなっていくのが分かる。
顔に熱が集まって、俺はどうすればいいのか分からなかった。
「…し、まくんが……すきです」
もう一度、目を逸らさずに。
伝わってほしい。
何度でも、伝えたい。
「………」
「……………」
「………」
「…………っ、あ、の……?」
長い沈黙に耐えられなくて、俺は思わず横目に逸らしながら声を絞り出す。
「………は、お前も所詮、そんなもんかよ」
沈黙の後の第一声は、乾いた笑いを含めたそんな言葉だった。
「………え…?」
「俺の体を独占したくなったんだろ」
「っ、ちが…っ!!」
「違くねぇ。俺をからかって楽しいんか」
「違う!俺はほんとに…っ」
志麻くんの手を掴んでギュッと握りしめると、勢いよく払われてしまう。
「触んな!!!」
「っ………」
いつも冷たく言葉を放つ志麻くんが、声を上げて俺を睨みつける瞳に、俺はグッと体が硬直する。
その目を見て思わず、見続けていようと思っていた志麻くんの顔から、目を逸らしてしまう。
「………俺は、お前なんか好きじゃねぇ」
「……っ」
顔が、志麻くんの顔が、見れない。
「…ずっと目障りやった。俺がどこに行っても、のこのこ着いてきやがって。俺がどんなに冷たくしても、無理やり抱いても、お前は文句一つ言わへん」
「…っそれは、志麻くんがすきやから」
「違う。お前は、俺しか知らへんから。ガキん時からずっと一緒にいて、そばにいてくれて、優しくてくれて?そんなん、好きにならへん方がおかしいよなあ」
でもお前の好きは、本物の好きやない。
そう言い放つ志麻くんに、俺はついカッと頭に血が上ってしまう。
「…っなんで、そんなこと言うん」
「お前が俺を好きとかアホなことぬかすからや」
「……俺が、誰にでも体預けるような男やって思っとるん…?」
「……………」
「…俺が、誰にでも簡単に股開くって思っとったん…っ?」
「……少なくとも俺は、お前がいなくても、身体を重ねる相手なんて山ほどおる。お前じゃなきゃダメだなんてこと、一つもない」
「………っ」
「俺は『CREW』No.1の男や。そんな俺が、恋愛の一つや二つで、俺についてきただけの覚悟の無いお前なんかに狂わされたくあらへん」
そう言って、ゆっくりと立ち上がった志麻くんが、俯いたままの俺に向かって言葉を零す。
「…今日のことは忘れてやる。だからお前も忘れろ。そんで二度とこの話はすんな」
冷たく低い声でそう言った後、志麻くんの足音が遠ざかった。
ずっと握りしめていたお守りは、まるで今の自分の心を表すかのように、クタクタによれてしまっていた。
紙に書いたら2倍になるなんて、クローバーに願えば叶うなんて。
そんな夢みたいな話、あるはずないのに。
“志麻くんがずっと、僕の隣で笑ってくれますように”
叶わなかった、俺の初恋。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
side:浦田
坂田の家で夕飯を食べる約束をしていたため、死ぬほど仕事を頑張った俺は、何とか仕事を終えることができた。
坂田と駅で待ち合わせて、マンションに辿り着き、エレベーターに乗って坂田と話をしていると、エレベーターを降りた瞬間に勢いよくセンラさんのドアから誰かが出てくる。
紫色の、髪の毛。
「っぇ、まーしー!?」
坂田が驚いて声を上げると、その声にSHIMAはビクリと体を震わせるが、俺たちの顔も見ずにSHIMAの部屋のドアを開けて入っていく。
「っぇ、ちょっ…!?」
勢いよくドアが閉まって、ガチャ、と施錠された音がなった。
「……な、んやったん…?」
「…センラさんの部屋から出てきたよな」
俺がそう言うと、何かに気づいた坂田が、苦しそうな顔をして俯いた。
それを見た俺は、今あの2人に何があったのか、なんとなく察してしまう。
坂田が急いでセンラさんの部屋のドアを開けるのを見て、俺も一緒についていった。
勢いよくリビングを開けると、ソファに座って俯いているセンラさんの姿があった。
「…っ…センラ……」
坂田が駆け寄って、センラさんの顔を除く。
するとセンラさんは、坂田の顔を見てじわじわと溶けるように震え出した。
「……っ……むりやった……っ」
泣いてはいないが、今にも泣き出しそうなセンラさんの声に、俺も思わずキュッと唇を噛み締める。
「…センラ………」
「…っ…もう、こんなん、いらへん……っ」
そう言って、俺の方に向かって小さな何かを投げてきた。
床に落ちたそれを拾おうとすると、いつかの時に見せてもらった、小さなお守りだった。
『……志麻くんから貰った、四つ葉のクローバーを押し花にしたやつです。ケースに入れて、そのケースをお守りに入れて持ち歩いてるんです』
あの時に見たセンラさんの笑顔は、本当に幸せそうだったのに。
ずっと強く握りしめていたのか、既にヨレがかかっている状態のお守りを拾った。
拾った後、俺は坂田とセンラさんの方へ歩み寄り、坂田に目線を送った。
センラさんは、ずっと下を向いているため、俺には最初から気づいていなかった。
『カギ』
そう口パクで伝えると、坂田は不思議そうな顔をする。
それはそうだろう。俺は坂田から貰った合鍵を今でも大切に持っているのだから。
でも、俺が行きたい場所は坂田の部屋じゃない。
坂田の部屋でも、センラさんの部屋でもない。
もうひとつの、俺が行かなきゃいけない部屋。
俺は坂田に伝わるように視線をずっと送っていると、やがて俺の意図に気づいたのか、ズボンのポケットからキーケースを取りだした。
鍵が何個もあるうち、俺が持っている坂田の部屋と似た形状のものが残り2つあった。
坂田がそれの1つを手に取って、俺に差し出す。
『たのむ』
俺がさっき言ったように、口パクで返され、俺はその鍵を受け取って頷いた。
俺はセンラさんに気づかれないようにリビングから出て、玄関を飛び出し、俺は隣の部屋に向かった。
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
坂田から貰った鍵をドアにさして捻ると、カチャリと音が鳴った。
坂田と意思が通じたのがわかって、ほ、と息をつく。
中に入って、初めて入るSHIMAの家に、俺はどこにいるのだろうかと辺りを見渡す。
すると、カタン、と物音が部屋から聞こえてきた。
ガチャ、とドアを開けると、少し遠くでバッと顔を振り向かせたSHIMAと目が合う。
どうやら、この部屋は寝室のようだ。
「っ……なんで」
「…………」
「……センラんとこ、行ったんちゃうん?」
「…坂田が今、センラさんと一緒にいます」
「……………」
は、と小さく笑ったSHIMAが、ベッドの端に腰をかけた。
それを見て、俺はゆっくりとSHIMAに近寄る。
何も言わないSHIMAを見て、俺は許可も得ずにSHIMAの隣に腰をかけた。
「……センラんとこ行かへんの?」
「…坂田がいるんで」
「……俺のことはええから、うらたさんもセンラのとこ…」
「…俺が、あんたのとこ行きたかったから」
そう言うと、驚いたように目を見開いて俺を見た。
そのSHIMAの目を見た俺は、手のひらに持っていたお守りを見せる。
「……それ、センラの」
どうやら、見覚えがあるらしかった。
少しヨレたお守りを見つめて、俺はゆっくり話し始める。
「……なんで、気持ち応えないんだよ」
もう、敬語で堅苦しく話そうとは思わなかった。
敬語で話してしまったら、きっとどこかで遠慮してしまうだろうから。
今のコイツに、ちゃんと伝えるために。
「…………」
「…坂田の時、俺の行動と言葉で、坂田のこと傷つけたって言ってたよな」
「…………」
「アイツにも、同じことすんのかよ」
SHIMAが俯くのを見て、俺は少し息をつく。
同じことするのか、なんて聞いたが、SHIMAの顔を見れば、本当の気持ちなど一目瞭然だった。
「……アイツもお前も、ほんと不器用だよな」
「………俺は、坂田やセンラみたいに素直じゃあらへんから」
「よく分かってんじゃねぇか」
ふは、と笑いながら言うと、ムスッと拗ねたように俺の顔を睨んだ。
拗ねた顔をしたSHIMAの顔が、少しだけ坂田と似ていて、俺はまた笑いそうになるのを堪える。
「……センラが俺のこと好きなんて、知らんかった」
ポツリと小さく零したSHIMAの声に、俺は少しだけ呆れる。
「結構バレバレだったけどな」
「……アイツ、昔から俺基準で行動してたから。兄ちゃん的存在で見られてんやろなって思ってた」
「……だから、困惑して思わずフッちゃいましたって?」
「それは違う」
強い声で断言するSHIMAに、俺は驚く。
「……俺じゃ、ダメだ」
「…………」
「…俺は『CREW』No.1になるために、自分の身体を汚した。金と引き換えに、俺自身を失うことを自分から選んだ。坂田は、俺の誘いを受けてこの仕事に入ったから、だから俺にも後悔はあったんよ」
「……なんで、『CREW』に入ったんだよ」
少しだけ気になっていた、コイツがSHIMAになった理由。
俺がそうやって聞くと、は、と小さく笑った。
「うらたさんって、結構直球で聞いてくるよな」
「…話したくなかったら話さなくていいからな」
「……俺も坂田とそんな変わらへんよ。金が欲しくて、人に勧められて入った」
「……………」
「……センラが、俺にとっての生き甲斐やった。アイツが笑ってくれれば、何でもよかった」
そう言って微笑むSHIMAの顔は、SHIMAでは見たことのない、『志麻』のほうの優しげな顔だった。
「…アイツの親、今海外行ってんねん。仕事の関係で、もう10年は帰ってきてない。センラにある程度の金を与えて、仕事のためにセンラを手放した」
「………」
「…センラは、親と一緒にいる時間より俺といる時間の方が長かった。ずっと1人で、大丈夫って笑ってるけど、ほんまはつらいの分かっててん。やから、アイツが幸せな生活を送れるように、金を貯めたかった」
なのにアイツ、とSHIMAが唇を噛み締める。
「…アイツ、俺と一緒に『CREW』やるとか言ってきやがった。アイツには、ちゃんとまっすぐに、結婚して、子どもとかもできて、幸せな生活を送ってほしかった……だから俺は『CREW』に入ったのに」
「………」
「俺はセンラに嫌われようとした。ずっとそばにいるアイツを、俺は一生嫌いになんかなれへん。だけど俺はアイツじゃなくても、違う奴の体で満たされることができてまうから。生きていけるから。だから…」
「…なあ。お前それ、本気で言ってんのか」
ほんとにお互い、不器用で。
互いを想いすぎるが故に、伝わらない。
俺の言葉に、ぽかんと口を開けたSHIMAに、俺は続ける。
「それでほんとに、アイツが幸せになれるって思ってんのか」
「…………」
「…両親が仕事で海外に行って、アイツは一人なんだろ?それを助けたかったんなら、なんでお前も仕事を理由にアイツから離れようとすんだよ」
「…………」
「アイツの幸せを、お前が勝手に決めつけんなよ。アイツはなんか言ったんかよ?お前と一緒にいたいから、お前が大事だから、お前が好きだから!お前がいるだけで幸せなんだろうが…!!」
強くそう言って、SHIMAにお守りを差し出す。
センラさんの、ずっと肌身離さず持ち歩いていた、大切な気持ちのこもったお守り。
「…これ、中に入ってるもの、何か知ってるか」
「……中に、なんか入っとったん?」
「…開けてみろ」
お守りをかすかに震えた手で受け取ったSHIMAが、ゆっくりと紐を解く。
中のものを抜き出すと、俺がセンラさんに見せてもらったものと変わらない、四葉のクローバーの押し花が入っていた。
「………これ……」
「…四つ葉のクローバー。お前と、一緒に取りに行ったんだってな」
「…………」
「…その願い事の内容、聞いた?」
ゆるゆると首を横に振るSHIMAに、同じケースの中に入っている紙を指差す。
「……これ、見てみろよ」
俺が言うと、SHIMAがケースを丁寧に開けて、その紙を取り出し、折りたたまれていた紙を開いた。
しばらくずっと見つめていたが、やがて限界が来たかのように涙を流し始めた。
俺はそんなSHIMAの様子を見て、少し安心してしまった。
“志麻くんがずっと、僕の隣で笑ってくれますように”
「…っ……なん、で……っ」
「…紙にも書いたら、2倍になって叶うかもしれないからって、照れながら教えてくれた」
「…っふ………ぅ………っ」
「…なぁ、ほんとに、このままでいいのか。お前は…今のお前はどうしたいんだよ。俺は“SHIMA”じゃなくて、“まーしー”に聞いてる」
坂田がSHIMAを呼ぶときの愛称。
坂田がまーしーを良い奴って思うように、俺もお前が良い奴って思ってるから。
お前にとって、坂田もセンラさんも、大切だって伝わってくるから。
だから俺は、お前にも幸せになってほしい。
坂田のことを教えてくれたお前に、俺もちゃんと返したい。
「…お前のキーケースに、三つ葉のクローバーの押し花が入れてあったのを見た」
「……っなん、で」
「坂田と会わせてくれた時。お前がこのマンションのロック解除のために、俺に鍵貸してくれただろ」
「………っ」
そう。
俺は、まーしーが三つ葉のクローバーを大切に押し花にしていることを、センラさんにクローバーを見せてもらう前に既に知っていたのだ。
まーしーが持っていたクローバーには最初は何も思うことはなかったが、センラさんの四葉のクローバーを見て、センラさんが幸せそうな顔で話をしてくれた時に、あの時見たまーしーのクローバーの意味を理解してしまったのだ。
「……なあ、ちげぇの?お前も、忘れらんねぇんじゃねぇの?アイツじゃなきゃ、センラさんじゃなきゃ、ダメなんじゃねぇの…?」
「……でも、おれは……っ」
「……俺だって、抱こうとか抱かれようと思えば、誰に対してでもできると思う。相手に求められれば、誰にだって行為はできる。でも、体は満たされても、心は満たされねぇ。それは俺だって、きっと坂田やセンラさんだって一緒だ」
まーしーの流した涙の雫がズボンに滲むのを見て、俺はお守りを掴んでいたまーしーの手を覆うように包む。
「……なあ、まーしー。お前はもうちょい、欲張ってもいいんじゃねぇの」
「…………っ」
「…坂田が『CREW』をやめたあの夜、まーしーは俺じゃ救えないって言ってたけど…センラさんはきっと、お前じゃなきゃダメだよ」
すると、カタン、とドアの近くから音が鳴った。
ドアの方に目をやると、センラさんと坂田がドアの奥で立っていた。
まーしーは気づいていないようだったので、俺はぽんぽんと優しく背中を叩いて、まーしーの隣から立ち去る。
ガチャ、と扉を開けると、センラさんが俺の顔を見て驚いた顔をする。
そんなセンラさんの肩にぽん、と手を置いて、坂田の手を引いてまーしーの家を後にした。
ドアを開けて玄関から出ると、坂田が俺の手を引っ張ってくい止める。
「っうらさん…!アイツら、また言い合いなるかもしれへんし、その時に俺らが止めへんと…!」
「大丈夫」
きっと、もう。大丈夫。
どんな結果になったとしても、今の2人なら。
「あいつらは大丈夫。お前の自慢の2人だろ」
「……!」
「な?」
「…………はぁ……ほんま、惚れ直すわぁ」
「…っな、なんでだよ…?」
「…なぁ、うらさん」
いきなり手を両手で握られ、坂田の口元まで上げられると、ちゅ、と手の甲に口付けをされる。
「な……っ」
「…うらさんも、俺の自慢の恋人やで?」
「〜〜〜っ……!!」
そして、多分俺は一生、コイツには敵わない。
とんでもない男を好きになってしまった、と最近思う。
でも俺も、当分この男を離せそうになかった。
「わ、分かったから……早く行くぞ、俺の家!」
「っえ、俺ん家じゃないん!?隣やで!?」
「アホか!空気読めバカ坂田!」
「ええ!?なんでなん!?俺なんかした!!?」
「うっせぇ!!黙ってついてこい!!」
「っ…ほんま息吐くようにイケメンやなぁ〜!よくわからんけどうらさんの家いくー!!」
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
side:センラ
うらたんと坂田の気配がなくなったのを確認して、俺はゆっくりと志麻くんへ足を踏み入れた。
志麻くんの背中を見ながら、俺はさっき坂田に言われたことを思い出す。
数分前。
俺のそばでずっと背中をさすってくれていた坂田に、俺は何度も頷いて無理やり心を落ち着かせようとしていた。
『……もう、俺は志麻くんのそばにはいられへんかもなぁ』
そう笑って言うと、坂田が怒ったように俺の肩を強く掴んだ。
『お前、ほんまにまーしーがお前のこと嫌っとると思っとるん?』
『……だって、好きじゃないって言われた』
『………』
『……俺、ずっと…志麻くんに迷惑かけてた。邪魔やって思われとったんや』
ふりかかってくる、志麻くんの冷たい声。
俺はもう、志麻くんのところへは行けない。
もう、あの笑顔を近くで見ることはできない。
今の関係はもう、ただの幼なじみでも、仕事の仲間でもない。
俺は志麻くんにとって、なんの意味もない奴なんだ。
『………なあ、それ、まーしーが本気で言っとったん?』
『……あの場で、冗談言わんやろ』
『…センラは、ちゃんと見たん?まーしーの顔』
坂田の言葉で、俺はあの時、志麻くんの顔を見ることができなかったことを思い出す。
『…ちゃんと顔見て話さなきゃ、気持ちなんて伝わらへんやろ!?』
俺の肩を掴んで必死に前後に振る坂田の顔はひどく歪んで、悔しそうで。
なんでお前はいつも、他人のことなのに、そんなに。
『まーしーにちゃんと…分かって欲しいんじゃないんかよ』
『……さかた…』
『…っフラれるなら、ちゃんと顔見て精一杯堂々とフラれてこいやアホが!!!』
怒る観点が少し違うような気がするのも、コイツらしい。
しばらく呆気に取られたあと、真剣な表情で俺を見る坂田に耐えきれなくてブハッ、と吹き出してしまう。
『…っ何笑っとんねん!?こちとら真剣やぞ!!』
『ははっ…!…ぁ〜あ、ほんま、お前には勝てへんわ』
ソファから立ち上がると、納得していないのか坂田は俺を見上げて眉に皺を寄せている。
『もう一回告ってくる』
笑いながらそう言うと、坂田は驚いたように目を丸くして、そして嬉しそうに笑った。
これが、数分前の出来事。
今目の前にいる、志麻くんに。
俺はもう一回、告白をする。
結果は分かってるから、さっきよりもどこか気持ちが軽くなったように感じる。
ふぅ、と小さく息を吐いて、志麻くんの背中を見つめた。
「…志麻くん」
俺がその背中に声をかけると、俺の存在に気づいていなかったのか、ビク、と志麻くんの肩が震えたのが分かった。
それでも、志麻くんは俺の方へと体を向けようとはしなかった。
俺はゆっくりと近づいて、もう一度背中を見つめる。
「……志麻くん」
もう一度声をかけても、志麻くんは何も反応をせずに俺に背を向けてベッドに腰掛けている。
俺はどうすればいいのか分からず、志麻くんの真後ろに突っ立った状態で、しばらく無言でいた。
無言の状態が続き、微妙な空気が部屋に流れる。
俺は首を横に振って邪念を捨て、ふぅ、と息をついた。
「……俺、志麻くんが好き」
「…………」
「…しつこいって思うかもしれへんけど…やっぱり、もう一回ちゃんと言いたくて」
背中を見つめながら言うと、志麻くんの背中が少しだけ、いつもより小さく見えた。
俺は無意識にその背中に手を伸ばして、志麻くんの体を包むように抱きしめた。
「………っ…、!?」
「……っ、志麻くん…泣いてるの…?」
顔を覗くと、志麻くんの瞳から雫が落ちているのが分かって、俺は目を見開く。
「…っは、なせ……っ」
背中から回した俺の腕を両手で掴んで必死に離そうとするが、今そんな力は無いようで、俺の腕はビクともしなかった。
「やだ。なんで泣いてるん」
「…っちが、泣いてへん……っ」
「泣いてるやん。なんで……………って、それ」
志麻くんがギュッと強く握りしめている手の中に、俺がさっき俺の部屋に投げ捨てたお守りがあった。
なぜか中身が開けられていて、紙とクローバーまで露わになっている。
「…っちょ、え?な、え、なんで志麻くんがそれ持ってるん!?」
「………うらたさんが、見てみろって」
「…っええ!?!」
俺の部屋に坂田だけでなくうらたんがいたことに気づいていなかった俺もだいぶ重症だが、そのお守りを志麻くんに見られてしまったこともかなり致命的だった。
(〜〜っほんっまあの人、要らんことを……!!!)
幼い頃、何の特別な日でもない時に貰った、小さな小さな葉を、今でも大切に、しかもお守りにして持ち歩いているだなんて恥ずかしすぎる。
しかも2倍になるかもとか言って書いた紙も既に開かれて、文字が俺にも見えている。
うらたんが見せたのなら、クローバーに願った願い事がそれであると今のまーしーには知られてしまっているだろう。
(…終わった……黒歴史確定や……)
「……なんで…こんな願い事してんだよ」
「…へ?」
まさか志麻くんが突っかかってくるとは思っていなかったため、俺は間抜けた声を出してしまう。
「…そのままや。志麻くんに、俺の隣で、笑っていて欲しいから」
「…………」
「……あの時から、ずっと。変わってない」
ずっと抱きしめたままでも、もう志麻くんは抵抗しなくなっていた。
ポロポロと涙を落とす志麻くんに、俺は離さないという気持ちを込めて腕の力を強める。
「…だから…泣かないで」
「………っ…」
「…志麻くんが悲しいと…俺も悲しい」
ずっと、ずっと前から
俺は親がそばにいなくても さみしくなかった
だって君がいてくれたから
だから
笑ってほしい
俺の前で泣いてもいい 怒ってもいいから
だから、寂しそうな顔をしないで
「………ふ……ほんと、馬鹿だよな」
涙を流したままの志麻くんが、ふわりと笑って、俺の腕にそっと手を置いた。
志麻くんが、笑ってる。
志麻くんに、腕を優しく握られている。
その事実を受け止められず、俺はしばらく放心状態だった。
すると、志麻くんがズボンのポケットからキーケースを取り出すと、あるものを取り出した。
それは、幼い頃俺が志麻くんに渡した、三つ葉のクローバーの押し花だった。
「……それ………」
「……なあ、センラ」
俺を呼んだ後、ずっと2つのクローバーを眺めていた志麻くんが、俺の顔を見た。
ゆらゆらと揺れ動いていた瞳から、涙があっさりと零れ落ちる。
俺の顔を見て、顔をくしゃりと歪ませたあと、腕を握る強さが強くなった。
「……おれ…っもっと……欲張っても、いい?」
「…志麻くん……?」
「……っおれ……もっとセンラと、一緒にいたい…っ」
俺はその言葉を聞いた瞬間、志麻くんの体をおれの方に振り向かせて、強く強く抱きしめた。
「っふ、ぅうぅ〜っ…っせん、らぁ……っ」
何かが弾けたかのように、俺の服をギュッと掴んで泣き出す志麻くんに、俺は愛しさが溢れる。
「志麻くん、好き……大好き」
「…っず……ほんと……馬鹿やなお前……っ」
「だって好きやもん。止められへんよ」
「……………っず……」
「……なあ、志麻くん」
志麻くんの手にある2つの押し花を、志麻くんの手ごと優しく握る。
「…志麻くんも、同じ気持ちやったって、思ってもええん?」
「…………」
「……志麻くん…?」
ずず、と鼻を啜った志麻くんが、やがて思い詰めたようにポツリと話し始める。
「……俺が、さっき言った言葉は全部、嘘じゃねぇ」
「…………」
「…俺は『CREW』No.1の男で…お前とは違って、誰にでも体預けられるし、股も簡単に開ける」
「……っ」
「……でも………ひとつ、だけ…嘘ついた」
は、と震えた息を吐きながら、志麻くんが俺の肩に頭を遠慮がちに乗せる。
俺が優しく頭を撫でると、少しだけ力が抜けたのが分かった。
しばらく頭を撫でていると、小さく息を吐いた志麻くんが俺の服をキュッと掴んだ。
「……好きじゃねぇってのは……うそだ」
「……っ、じゃ、あ…!」
志麻くんの顔を見ようと肩を掴んで押そうとすると、志麻くんが肩に頭を置いたまま首を横に振ったのが分かって、動きを止める。
「…ほんとに、ええんか。俺とは…結婚もできねぇし、子どもだって…」
「…志麻くんと一緒におれるんやったら、それだけで幸せやし、もう何も望まへんよ」
「……っでもおれ……今まで、お前に酷いこと…っ」
「…俺のこと、心配してくれてたんやろ?昨日も、俺が風邪ひいた時、あんな風に言ってたけど、夜中にお見舞い来てくれとったんよな」
「…!…起きてたん…?」
「意識あったぐらい。でも、起きてなくても分かるよ、志麻くんだって」
「………っ」
「……ね、志麻くん」
宝物を包むように優しく抱きしめ、俺は志麻くんの耳元に口を寄せる。
「一緒に、幸せになりたい」
「………っ……」
「…志麻くんが、好きです。俺の、恋人になってください」
耳元でそう言うと、耳がじわじわと赤くなった志麻くんが、やがて小さく頷いた。
「〜〜〜っ……やばい、俺もう泣きそう…」
「……っず……泣き虫」
「…今の志麻くんには言われたくないですぅ…」
「うっせ……」
俺の肩から顔を上げたかと思えば、そっぽを向いて裾で涙を拭う志麻くんを見て、俺は両手を志麻くんの頬に添えて涙を拭う。
そんな俺の仕草を、何も抵抗せずに目を閉じて受け入れてくれる志麻くんに、俺は未だ信じられない気持ちでいた。
志麻くんが、俺の前で泣いてくれている。
俺に寄り添って、素顔を見せてくれている。
それがどれだけ、志麻くんにとって難しいことなのか、俺は知っているから。
「…志麻くん、キスしたい」
「………何回もしてるやろ」
「…恋人同士のキスはしたことないで」
額をくっつけると、戸惑ったかのように志麻くんの瞳が揺れ動く。
目尻は既に少し赤く腫れていて、表情は見たこともないくらいにか弱く見える。
そんな志麻くんが、愛しくてたまらなかった。
「志麻くん、ここ来て。膝の上」
志麻くんと少し距離を開けて、膝の上を2回ほど叩く。
腕を広げて微笑んで、膝の上に誘う。
最初は、しどろもどろして乗ることに躊躇っていたが、やがてゆっくりと近づいて、遠慮がちに俺の膝に跨った志麻くんをギュッと抱きしめた。
「うぅ、ほんまに可愛い……」
「っるせ………とっととしろや」
「ふは、ムードないなぁ、ほんま」
頬に触れ、そのまま耳を触ると、くすぐったかったのかぴくんと志麻くんが反応する。
それにクスリと微笑んで、俺は柔らかそうな唇に触れるだけのキスをした。
「…ん……」
触れるだけのキスなのに、じわじわと心が暖かくなっていく心地がする。
志麻くんも緊張しているのか、少し唇がかさついていて、それにも愛しいと感じてしまう。
触れただけの唇を離すと、真っ赤になった顔を隠すように志麻くんが俯いた。
「…ね、志麻くん」
「…………?」
「……俺、志麻くんのこと抱きたい」
「………は?」
俺の言った言葉に、さっきの甘い顔とは違って口を開けて呆気に取られている。
「……お前、俺のこと抱けるん?」
「なっ、え、どういうことやねん…!?」
「………お前、俺に抱かれても抵抗しなかったから……そっち側だと思ってた」
そっち側、というのはつまり抱かれる側、ネコだということだろうか。
「それは、相手が志麻くんやったから……志麻くんにやったら、抱かれてもええって思ってたし」
「………………」
「それに俺、このままやと志麻くんのせいで童貞非処女やねんぞ…!?…だから俺、志麻くんに、両方貰って欲しいねん。俺の、初めて」
「……………」
「…あ、志麻くんが俺には抱かれたくないとか思ってたら遠慮なく言ってくれな?俺、志麻くんに無理はさせたくない」
「……ちげぇわ、アホ」
すると、膝の上に大人しく座っていた志麻くんが、俺の首に腕をまわして、唇にキスをした。
「んっ……!」
「…は………ふ、いいで。貰ってやる」
揶揄うように、でも嬉しそうに微笑みながら言った志麻くんが、あまりにも愛しすぎた。
「ほんま志麻くんかっこええ…抱いてくれ…」
「はぁ…?抱く側が何言っとるん」
「…前までは抱かれてたし」
「……ふ、じゃあ、後ろで抱いてやる」
俺の耳元で囁いた志麻くんが、真っ赤になった俺の反応を見て楽しそうにクスリと笑う。
「っは、顔真っ赤」
「〜〜っ、ほんまに反則…」
「んむっ…!」
恋人同士として初めてしたさっきのキスとは違い、乱暴に唇を奪うと、それを受け入れるように首に回した腕の力を強めた。
舌を入れると、ふ、と息を吐いて、志麻くんも舌を絡ませた。
膝に跨った状態のため、普段は俺より身長の低い志麻くんが、今では俺より少し上になっている。
舌を甘噛みすると、体をピクンと震わせながら、それでも離れない志麻くんに、俺は息を零す。
「…ぅ、んん……っ」
ジュ、と志麻くんの舌を吸うと、息が漏れたように志麻くんが鼻から声を出す。
キスで気持ちよくなってくれていることが嬉しくて、俺は更に舌を絡めた。
やがてゆっくりと離すと、名残惜しそうに頬を赤く染めながら俺の唇を見つめる志麻くんを見て、俺はもう一回キスを落とす。
「ん………」
キスをすると、志麻くんは嬉しそうに息を零して、腕の力を強めた。
志麻くんの背中に腕を回して、服の中に手をしのばせる。
ツ、と撫でるように背中をなぞると、くすぐったいのかピクンと体が反応した。
しばらく背中を撫でた後、腕を前に持ってきて、胸へ移動させる。
男にしては弾力があり、触り心地の良い膨らんだ胸をなぞって、小さく主張している突起を摘むと、ピク、とまた反応した。
唇を離すと、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「……俺、胸何も感じねぇぞ」
「…あんま触られない?」
「…んなとこ、誰にも触らせたことあらへん。第一使わへんし。要らんやろ、こんなん」
それは、俺には触られてもいいということでいいのだろうか。
しばらく固まっていると、不安そうに顔を覗き込まれた。
そんな顔も可愛すぎる。可愛いの暴力だ。
「…んだよ。敏感の方がええんか」
「ちが…っ、俺が!頑張るからな!」
「何をだよ…………っん」
綺麗な桃色をした突起をキュッと摘むと、ピクンとまた体を震わせた。
触られていないから気づいていないだけで、実はかなり敏感なのではないだろうか。
そう思いながらも、俺は胸への刺激を続ける。
服を胸まで上げた後、左手で片方の胸を弄りながら、もう片方に顔を近づけて、舌を出して舐める。
「……っ………ぁ………」
僅かに出される声に、俺はもっと聞きたくなって更に刺激を強める。
筋トレで鍛えているからか、柔らかい胸を左手で揉むと、は、と息をこぼした。
「……っ……揉んでも、なんもねぇやろ」
「ん……志麻くんの、柔らかい」
「っ、胸筋だっつの!仕事のために坂田と一緒に鍛えてんだよ」
「ん、知ってる………けど俺、志麻くんの胸好き」
「っ………ぁ、吸うな……っ」
甘噛みした後、口に入れて舐めると、志麻くんの指が俺の後頭部に当てられる。
力を入れて胸から口を離されたため、俺は反対側の突起に頭を近づけて吸った。
「っぁ………っだめ、やめろ……っ」
「……こっちのが好き?体ビクビクしてる」
「ちが、好きじゃあらへん……っ」
「でも、硬くなってる」
「〜〜っ、んなの、舐められたら誰だって…!」
「ふは、ごめんごめん」
真っ赤になって涙目になりながら抵抗する志麻くんにクスリと微笑んで、志麻くんの服を脱がした。
上の肌が露わになった志麻くんを見て、俺は今まで志麻くんに抱かれる時も、まじまじと体を見れなかったことを思い出す。
「……ここに、ホクロあったんや」
「………鎖骨?」
「ん……志麻くんのホクロってエロいよな」
「…っ、なんやそれ……」
ちゅ、と鎖骨にあるホクロにキスをして、また下に顔をずらして、突起を舐める。
しばらく舐めたり吸ったり、甘噛みしたりしていると、志麻くんが膝の上でゆらゆらと腰を揺らしているのが分かった。
「……は……志麻くん…?」
「っん……も、そこ、ええから…」
頬を赤く染めた志麻くんが、俺の手を掴んで志麻くんのズボンに手を当てた。
「し、まく」
「……こっち……はやく…」
俺の腕を掴む手をキュッと強くしたのが分かって、俺は志麻くんにキスをする。
息継ぎの合間に、腰上げて、と言うと、素直に少しだけ腰を上げてくれた。
俺は志麻くんのズボンに手を当てて、ゆっくりと下ろす。
下着を残したまま、ズボンだけを脱がすと、志麻くんが俺の服に手をかけた。
「…お前も、脱げ」
「ん、分かった」
服を脱ごうと手をかけると、眉を寄せた志麻くんに遮られる。
「え?」
「……俺が、脱がせる」
「……っ、なんやねんそれ……」
志麻くんにされるがままに下着以外全て脱がされると、再度俺の膝に跨った志麻くんが俺の顔を見て満足そうに息をついた。
「……ん」
遠慮がちに手を広げた志麻くんに、俺は勢いよく抱きつく。
「っぁあ〜……ほんまに可愛い」
「………可愛いんか」
「ん!めっちゃかわええ!」
「…………ふん」
グリグリと擦り付けるように俺の首に擦り寄る志麻くんに、俺は気持ちが溢れるばかりだった。
(…飼い主に懐いた猫みたいや……)
「……センラ」
火照ったように赤い頬で俺の頬を擦られ、耳元で甘く囁かれて、俺が耐えられるわけが無い。
下の下着に手を当てると、ちゃんと反応してくれていて、俺はキュッと胸が締め付けられる。
「……っ……ふ……」
俺の首に腕を回しながら、肩口に顔を当てて耐えるような声をする志麻くんに、俺は刺激を与え続ける。
「……っ……っぁ…」
「…志麻くん、気持ちいい?下着、ちょっと濡れてる」
「…っ……見んな…」
「……志麻くん、可愛い」
耐えられずに下着に手をかけると、志麻くんもなのか、何も言わずに腰を浮かせてくれた。
下着を足に滑らせて、下着を脱がせた後、志麻くんの既に反応しているところを扱く。
「っぁ………っん………ん、………」
さっきよりも反応を見せる志麻くんに、俺はやめずに刺激する。
「……っ………は……っ」
ギュッとしがみついて俺の肩に頭を乗せながら唇を噛み締める志麻くんに、俺は下半身の刺激を止めた。
「…っぁ………?」
「…志麻くん、なんで声我慢するん?」
「………っ」
「俺、志麻くんの声聞きたい……我慢せんで…?」
「…し、てねぇわ……」
そっぽを向く志麻くんに、俺は志麻くんの先端をぐり、と押す。
「んぁっ!」
今までで一番の声を出した後、しまった、というような顔で口を覆う志麻くんを見て、眉に皺を寄せる。
「うそ。だってこんな可愛ええ声出せるもん」
「……っお、まえ…」
「……俺、志麻くんが店でお客さんの相手してる時、いっぱいええ声で喘いどったん知ってんで?」
「……なんで」
「…使用後の部屋の後片付けしてる時に……志麻くんが隣の部屋におったん知らんくて……」
お客さんには聞かせるのに、俺には声すら出したくないのか。聞かせたくないのか。
そんなちっぽけなことで嫉妬してしまうほど、今の俺は余裕がなかった。
「…金貰ってやってる仕事や。そんなん、無理やりでも出さなあかんやろ」
「……うん。わかってる」
「…わかってへん。仕事での行為の時の声は全部演技やって言っとんねん」
「……………え?」
ぽかんと口を開けると、やっぱり分かってない、といった顔で志麻くんが溜息をついた。
「…声出さな、客も興奮せんやろ」
「………でも…めっちゃ気持ちよさそうな声してた」
「…何年この仕事やっとると思ってんねん。声出すのぐらい経験積めば出来るわ」
「…………ほんま?」
「……実際ほんまに感じてる時、恥ずかしくてそんなに声出さへんやろ」
恥ずかしそうにそっぽを向いた志麻くんに、俺は先程の嫉妬も全て吹き飛んで、志麻くんに抱きついた。
「へへ…嬉しい」
「………ん」
「…でも、志麻くんの声聞きたい。演技じゃなくて、ほんとの志麻くんの声」
「………俺の声なんか聞いても、何も良くならへんやろ」
「そんなことあらへん。俺、志麻くんの声好きやもん」
「…………」
「……な?お願い」
上目遣いで目を合わせると、何かをグッとこらえた顔をした志麻くんが、ゆっくりとまた肩に頭を置いた。
「……後で後悔すんなよ」
「…ん、絶対せぇへん」
志麻くんの頬にキスした後、勃った状態のままの志麻くんのを優しく掴んで、扱く。
「…っぁ………っは、ぁ……っ」
先程と声量も何も変化ないように見えるが、吐息の多さや口を開けて感じている志麻くんの声を聞いて、我慢しないでくれていると分かって、俺は更に刺激を強めた。
先端をぐりぐりと押したり、扱く速度を早めたりすると、声が段々と艶やかしくなっていく。
扱く速度に合わせてゆらゆらと腰を動かしているのが分かって、俺はキュッと握る力を強くする。
「んぁっ………っぁ……っく……」
「……志麻くん、気持ちい?」
俺が耳元で問うと、ビク、と体を震わせながら、こくりと頷いた。
(……やばい、可愛すぎる……)
「……っ……ふ……っぁ……」
「……腰、揺れてる……えろい……」
「ぁ……ちが、……勝手に……っ」
「勝手に動いちゃうん…?ほんま、えっちやなぁ」
扱く速度を早めると、ぐちゅぐちゅ、と卑猥な音が耳をくすぐる。
快感から逃れたいのか、首をふるふると振る志麻くんの仕草も、色気が溢れている。
「ぁ…っせ、センラ……」
「…ん?イきそう?」
恥ずかしそうに小さくコクコクと頷く志麻くんが可愛くて、俺は少し加虐心が芽生える。
「ダメ。イキたいならちゃんと自分で言って?」
「……っ」
「ちゃんと俺の手でイキたいって言えたらイかせてあげる」
そうしている間にも、扱く速度は変えない。
焦らされていることに耐えられないのか、腰を引かせて刺激から逃れようとしているのを、俺が志麻くんの腰を片手で抱きしめるように押さえつける。
「っあ、だ、だめ……っ」
「ダメ志麻くん。ちゃんと言って?」
「っ、ふぅぅ〜……っ」
涙を流してイヤイヤと首を振る仕草も愛しくて、流れた涙にキスを落とす。
「……志麻くん、言って…」
「…っぁ、ぁあ、……っきたい、イキたい…っ」
「なにで…?」
「…っせ、センラの…っセンラの手でイキたい…っ」
「…ふ、かわええ。いいよ、イッて」
「んぁあっ、ぁ、あっ!ぁ、イク………っ!」
体を剃ってビクビクと痙攣しながら、欲が放たれる。
ちゃんと志麻くんが最後まで刺激を感じれるように、志麻くんの体に合わせて扱く速度を弱めると、力が抜けた志麻くんが俺の体に体重をかけた。
は、は、と息を吐く速度が落ち着くまで背中を撫でる。
「……ごめん、志麻くんが可愛くて…ちょっと意地悪なことした」
「は……は………………別に、良い」
「ほんま…?」
「…るせぇ。それより……」
志麻くんが跨ったままの足を少し浮かせて、向かい合ったまま膝で立つと、俺の手を志麻くんの後ろの口にそっと当てた。
「……こっち……」
「〜〜っ……ほんまにエロい……」
ツゥ、と蕾の周りを指で撫でると、キュッと締まったのがわかって、俺は指を入れたい欲が高まる。
ローションを探そうと辺りを見渡すと、それを理解したのかベットのそばにある棚から志麻くんがローションを取り出す。
ストックが棚の中にまだ2つもあって、志麻くんが手に取ったのは既に半分くらいなくなっていた。
「……使ったん…?」
自分が思っていたよりも小さい声をあげると、そんな俺を見た志麻くんがその意図を読み取ってクスリと笑った。
「…誰も呼んでねぇよ、一回も」
「…じゃあ、なんで」
「……慣らす練習……してんだよ」
照れくさそうにそっぽを向いた志麻くんに、俺は頬が熱くなるのを感じる。
「え、ひとりで…?」
「……誰が人前でやるかよ」
「……ほんまに、誰も呼んでない?」
まだ不安が取り切れない俺に、志麻くんが俺を抱き締めて頭を撫でてきた。
「…俺は仕事とプライベートは完全分離しとるわ」
「……うん、知ってる」
「……俺がほんまは潔癖症なん、知っとるやろ」
そう。志麻くんは昔から、他人にむやみに触られたりすると湿疹ができるほどの潔癖症なのだ。
だから『CREW』で志麻くんが使う部屋も、全て清潔になっているように徹底しているのだ。
志麻くんは今でも偶にだが、他人との行為の後で湿疹ができてしまうことがある。
でも、できる度に無理やり耐えてやり過ごしているそうだった。
「…俺は、自分のベッドに人が乗ることすら躊躇いあるで」
「………でも、うらたんこの部屋から出てきた」
「…坂田とうらたさんは別枠やろ。何も思わへんよ」
「………俺は…?」
期待を少し込めながら尋ねると、顔を赤く染めた志麻くんが俺の頭を軽く叩いた。
「って…!」
「……お前は特別だろ………あほが」
「〜〜っ、俺も志麻くん大好き…!」
「っな……!!」
志麻くんの言葉の意味を読み取って、嬉しくなって抱きつくと、抵抗しようとしていたのに、何も言わずに体を預けた志麻くんに、俺は不思議に思って顔を覗く。
艶やかな表情で、俺を見つめ返した志麻くんを見て、俺はキュッと胸が締め付けられた心地がした。
「……ん………」
どちらからともなくキスを交わし、舌を絡める。
キスをしている間、志麻くんが手に持っていたローションを受け取って、手に出して絡める。
指に絡めて暖かくなった後、後ろでヒクついている蕾に手をやった。
「んぅ………っ」
手を当てただけで、鼻から艶やかな声を出す志麻くんに、俺は欲が高まる。
とんとん、と入り口を叩くと、指を呑み込みたいのか引きつけるように締まった。
指を2本入れると、あっという間に奥まで呑み込んでいく。
唇を離すと、2人の唾液が糸を引いて切れた。
「ぁっ……っ指……なげぇ……っ」
「……え?」
気づいた時には、俺の指はもう根っこまで見えなくなっており、志麻くんのナカのかなり奥にまで入ってしまっていた。
「…っぁ、ごめ、痛い……?」
「…ん、ん……っ痛くねぇ……」
力なく首を振る志麻くんを見たあと、俺はゆっくりと指を動かす。
どこが気持ちいいのかも分からず、とりあえずばらばらに動かしたり、挿れたり抜いたりを繰り返した。
「っはぁ、ん、ん……っ」
「…気持ちいい……?」
「っぁ、あ、ぅ、……っ、っ…」
コクコクと頷きながら、必死に快感に耐えている志麻くんの顔を見て、俺は刺激を与え続けた。
でも、俺も以前まで志麻くんに抱かれていた身のため、気持ちいいところが男にもあるというのは分かっている。
俺も志麻くんに何度もそこに徹底的に刺激を与えられ、何度も達した記憶があるからだ。
俺はその場所を探すために、志麻くんの腹の方に指を曲げる動作を、色んな場所で試し始める。
その意図が分かったのか、志麻くんが俺の腕を掴んで動きを止めさせた。
「…志麻くん…?」
「っぁ………ん……探し、てんだろ」
「…もっと気持ちよくなってほしいから…」
「……っ」
俺がそう言うと、顔を赤く染めた志麻くんが、俺の腕を掴んで固定したまま体を動かす。
ある場所まで行くと、志麻くんがビクンと体を跳ねさせた。
すると、俺の腕を離して、首の後ろに手を回して抱きつく。
志麻くんが腰を浮かせているため、俺の前にはさっきまで刺激を与えていた胸が主張しており、俺は目のやり場に少し困ってしまう。
「……ここ…?」
「…ん、いいから……指……」
志麻くんの声にこくりと頷いて、指を曲げると、小さな膨らみが指に当たる。
「んぁっ…!!」
志麻くんが声をあげてナカがキュッと締まったのが分かって、俺はその場所を弄る。
とんとん、と小さく叩いたり、ぎゅ、と押したり、優しく擦ったり、徹底的にその場所に刺激を与えると、志麻くんの声が段々と大きくなっていくのが分かった。
「っはぁ、ぁ、あん……っあ、せんらぁ…っ」
「はぁ……っ、志麻くん…」
「ん、んぅ…ぁっ!ぁあ、ひぅ…っ」
志麻くんの後ろからはその場所を弄ったり、挿れたり抜いたりすると、ぐちゅぐちゅ、ぐぽぐぽ、と卑猥な音が鳴り響いて、俺の興奮を高めた。
目の前にある小さな突起に耐えきれずに吸い付くと、志麻くんの体がまた跳ね上がった。
「はぁぁ…っ!!」
「…ん、ん……っ」
「あぁ、むね、やめ……っんぁあ……っ」
胸に吸い付きながら、後ろの刺激もやめない。
志麻くんが俺の頭に手をやると思うと、離したいのか抱きしめたいのか分からず、力がつかずに躊躇っていた。
「……志麻くん、手、ギュッてして」
「ふぁ、ぇ…?」
「ギュッてしたら、もっと気持ちよくなれるから」
「……っ…」
俺のその言葉に、期待したような顔で頬を染めると、やがてゆっくりと俺の頭を抱えるように抱きしめた。
俺はそれを確認した後、目の前にある突起にまた吸い付いて、後ろの刺激も激しくする。
「んぁぁっ…!?あ、ひぅ、ぁあ、あっ…!」
「…ふ、ここ、噛まれるの好き…?噛むとビクンてなる」
「ぁあ、ぁ、わ、かんな、ぁあ……っ」
胸と後ろの刺激に首を振りながら必死に耐える志麻くんを見て、俺は欲が高まる。
ギュッと胸を押し付けるように抱きしめられ、指の動きに応じて腰を揺らしている志麻くんを見て、耐えられないほうがおかしい。
指を3本に増やすと、また声を大きくあげた。
「はぁ、あっ、ん、も、センラ……ぁあっ」
「…イきそう?前、触る?」
「ぁあっ、いいっ、うしろ、っあ、いく、いく…!」
どうやら後ろで達したいらしく、俺の問いに必死になって首を振った。
限界が間近のようで、体の力が入らないのか俺の頭を抱えて必死に足を浮かせている。
「んぁあ…っ、も、らめ、や、イっちゃ…!!」
「…っは、いいよ、ナカでイッて」
「ぁあ、だめ、あっ、いくっ、〜〜〜っ…!!!!」
ビクビクと大きく痙攣しながら、大きく体を反らす。
本当にナカで達したようで、前の性器からは先走りがトロトロと溢れているだけだった。
指をゆっくり抜くと、ガクンと膝の力が抜けたようで、はぁはぁと息を吐きながら体を預けてくる志麻くんをしっかり受け止める。
「…志麻くん、めっちゃえろかった…」
「んん、はぁ、言うな…っぁ」
「…も、俺、限界…」
俺はまだ下着を付けたままだったので、既に膨れ上がった俺のソレは痛むほどだった。
志麻くんの体を支えながら下着を脱ぐと、互いに丸裸の状態になった。
「…はぁ、せんら……」
少しだけ落ち着いた志麻くんが、再び俺の膝に跨いで、ぎゅう、と抱きつく。
俺も隙間がないほどに抱きしめると、互いの熱いモノが中で挟まって触れ合う。
んっ、と達したばかりの志麻くんの体が反応したのを見て、俺はキスをしながら志麻くんの熱を俺のモノで擦った。
「ん、ぁ…っふぅ……っ」
「……っはぁ、志麻くん、もう俺……っ」
限界だという意味を込めて志麻くんの名前を呼び、肩を強く掴むと、トン、と体を押され、俺は素直にベッドに倒れ込んだ。
俺に跨ったままだった志麻くんが少し腰を上げて、勃ちあがった俺のに何もつけずに入れようとするのを見て、俺は慌てて飛び起きて志麻くんを止めた。
「ちょ、志麻くん…!?何してんねん、ナマでしたらあかんやろ…!?」
「……っ、い、やだ…っやだぁ……っ」
涙を流しながら首を横に振る志麻くんを見て、俺は志麻くんの背中に手を当てて落ち着かせる。
「どうしたん…?なんでいきなり……」
『CREW』でも、避妊具をつけずに行為することは罰則となっており、客がつけなかった場合は二度と店に来られないように、『CREW』のメンバーがつけさせなかった場合には、そのメンバーは辞職させるというルールがついている。
だから志麻くんも、一度も避妊具をつけずに致したことはないだろう。
「っ、ぅう……っず……」
さっきまでの快感を浴びている時の震えとは違い、明らかに何かを恐れているかのような震えをする志麻くんを見て、俺は志麻くんを優しく抱き締めて、背中をさすって落ち着かせる。
少しして、息が整ってきた志麻くんを見て、俺はほ、と息をつく。
「……落ち着いた……?」
「……っ……ん……」
「そか、よかった」
ぽんぽんと優しく頭を撫でると、志麻くんがキュッと手を強く握りしめて、またゆらゆらと瞳が揺れ動く。
「……センラ…」
「…ん…?」
「…センラ…に、初めて……いっぱい、貰ってるから……っ俺も、初めて…っセンラに、貰って欲しくて……っ」
「……志麻くん…」
「…でも、おれ……っ俺の初めて…これしか、ねぇから……っ」
そう言って、ポロポロと瞳から涙を零す志麻くんを見て、俺はキュッと胸が締め付けられる。
「……俺に初めてくれようとしてくれたん…?」
「…っず……ん、ん……っ」
「…ふ、そっか、めっちゃ嬉しい」
思わず口角が上がって、緩んだ口が引き締まらない。
ぎゅうっと強く抱きしめて、志麻くんの涙を手で拭った。
「……志麻くんの初めては、もちろん俺が欲しいよ。でも、明日も早くから仕事やし、万が一志麻くんがお腹壊したりしたら嫌や。志麻くんの体は、俺も大事にしたい」
「………っず……」
「……だから、今度休みがちゃんと取れて、俺が一日志麻くんのそばにいれる日に、志麻くんの初めて、欲しい…な」
「……………」
「そもそも俺、今ですらちょっと触っただけで爆発しそうなんに……多分、そんなんしたら刺激強すぎて不発で終わる…」
「………っふは」
俺の言葉に、吹き出すように志麻くんが笑った。
それを見て、俺は安堵の息をする。
「…だから、ね?今日は、ちゃんとつけてしよ?」
「……ん」
こくりと頷いたのを見て、俺はホッと息をついた。
そんな俺の顔を見て、志麻くんがポツリと呟いた。
「……1個だけ、してほしいことある」
「…?いいよ、俺ができることなら何でも」
「………俺が上の体位でシたい」
「………………ってことは……っぅあ…っ!?」
またさっきと同じように押し倒され、あっという間に慣れた手つきで俺のモノに避妊具をつける志麻くんに、俺はされるがままになるしか無かった。
無事に付け終わると、志麻くんが腰をあげて勃ちあがった俺のモノを呑み込んでいく。
「っはぁ、ああ………っ」
「っ、うぁ………っす、ご……」
キュンキュンと締め付けながらも、しばらくして全部呑み込んだ志麻くんが、ゆっくりと動き始める。
「はぁ、ぁ、ぁ……っ」
「っ、や、ば……っん、はぁ…っ」
「っぁ、は、っく……っん」
志麻くんが腰を上げて落とす度に、志麻くんのお尻と俺の太ももが当たる音と、志麻くんのナカで絡み合った卑猥な音が部屋に鳴り響いて、俺の耳も刺激される。
(…っこれ、ほんまに後ろで抱かれてるやん…!)
俺の初めてに対する気持ちなど一瞬で消し去り、今は達しそうな限界を何とか必死に食い止めている。
志麻くんの顔を見ると、志麻くんも何かを耐えるように必死に体を動かしていた。
心なしか、先程よりも志麻くんの声が若干だが弱っているような気もする。
でも、俺には自分以外を心配できるほどの余裕は持ち合わせていなかった。
「っうぁ、もうやばい、志麻くん……っ」
「…っはぁ、あっ、イケや、おら…っ……!」
「…っぁ、もうイク、……っ!!」
「んぁ、ぁああっ!!!」
志麻くんの腰を掴んで、本能のままに奥まで挿れると、急な刺激に驚いたのか、志麻くんがナカをキュウ、と締め付け、俺はその刺激に流されるように欲を放った。
ドク、と避妊具の中で熱を放っているのが分かって、俺はゆっくり息を吐いて力を抜いた。
すると、志麻くんも力が抜けたのか、俺のほうに体を倒れさせる。
「っはぁ……は、志麻くん……」
「はぁ、は……っまだ、もう一回……」
「……っ、ん」
力なく起き上がった志麻くんが体を震わせながらゆっくりと抜いて、また慣れた手つきで避妊具を取り替える。
もう一度乗ろうとした志麻くんを、俺は起き上がって志麻くんの唇を乱暴に奪った。
「んぅ…っ、ふ、ぁ……っ」
深い口付けを交わしたまま、俺は志麻くんをゆっくりとベッドに押し倒す。
「んぅ…っ!?ん、んん……っ」
押し倒したあと、急に抵抗し始める志麻くんに、俺は唇を離した。
「っは、やだ、これ嫌だ…っ」
「そんなにいや…?怖い……?」
見下ろされる体制が嫌なのだろうか。
怖いのだろうか。
志麻くんが嫌だと思うことはしたくないが、理由を話してくれないと俺もこの欲望を打ち消すことは出来ない。
俺だって志麻くんを、とろとろに甘やかしたいのだ。
「………っ怖いとかじゃ、あらへん」
「…じゃあ、なんで?」
「………っ俺、いつも…俺が優位な体制…さっきのやつ…しか、やったことねぇから……」
「………!」
「……だから、お前のこと、気持ちよくできへんかもって……っあ、待って…!!」
ぐい、と膝裏に手を当てて股を広げた俺に、志麻くんが慌てて首を振るが、俺はそんなことで止められる理性は持ち合わせていなかった。
なんやその理由、くっっそ可愛いやんけ。
「志麻くん…さっき、初めてあげたいからナマでしたかったんよな…?」
「っぇ……?………ん」
コクリと頷いた志麻くんを見て、俺は熱を帯びた塊を志麻くんの蕾にあてがう。
「っぁ……っ!」
「今日は俺に、この初めてちょーだい……っ」
「んぁ、まって、ひっ、ぁあああ……っ!!!!」
一気に奥まで挿れると、志麻くんの腰が浮いてガクガクと痙攣したと思えば、挿れただけなのに志麻くんの腹に白い液が流れる。
「……っぇ、志麻く、イッた……?」
「ふうぅ〜…っ、ぁ、あぁ……っ」
まだ昇りつめたところから中々下がれないのか、ビクンと体を震わせたままで返事もできない様だった。
ちゅ、と音を立てて唇以外の顔の部位にキスをして、志麻くんが落ち着くのを待った。
「っは、はぁ、ぁ……っ」
「……志麻くん、平気…?」
「は、ん、ん……っ」
力なく頷いて、志麻くんが俺の体にしがみつくように抱きしめた。
「……は、センラ……」
「…まだ、この体制やだ…?志麻くんが嫌なら、したくあらへん」
「………………」
「……志麻くん…?」
「……っ…初めて、ほしくねーんか」
「…っ!欲しい!めっちゃ欲しい!」
志麻くんの顔を見て、興奮気味に声を上げると、志麻くんはそれに驚いて目を見開いたあと、クスリと微笑んで両手で頬を撫でた。
「……じゃあ……初めて……貰って…?」
「……っ、志麻くん…!!」
「んぁ、ぁ、はぅ、ぁああ…っ!!!」
欲のままに腰を振ると、ぎゅう、と俺の体に抱きついた志麻くんが声を高くあげる。
パンッ、パチュ、とさっきよりも増して卑猥な音が部屋に鳴り響き、俺の興奮を高めた。
「んぅ、あ、きもち、ぁぁあ…っ」
「んっ、はっ、気持ちいい…?」
「はぁあっ、い、いい、っセンラ、っあぁあ…っ」
志麻くんが、俺で乱れてくれている。
俺を抱き締めて、快感を浴びている。
それが嬉しくなって、俺は志麻くんの体を強く抱き締めた。
「はぁ、ぁあっ、あ、ひぁ、っぁぁあ……っ」
「っは、志麻く、志麻くん……!!」
「ああっ、あっ、ひっ、ぅぅう〜…っ」
ポロポロと涙を流す志麻くんに、俺はその涙を舌ですくって、唇を重ねる。
お互いに激しく求めて、まるで上も下も犯しているような感覚になった。
「っあ、ふぅ、んん、ぅう〜…っ!」
「ん、ん……っ」
「……っは、あ、やら、んぁあっ、そこだめぇ…っ」
唇を離した後、先程志麻くんが教えてくれたナカの良いところを激しく当てると、志麻くんの腕の強さが強くなった。
「っは、ココ気持ちいい…?」
「んぁ、ひぅぅ、イっちゃ、イっちゃう…っ!!」
「っは、いいよ、気持ちよくなって…っ?」
「はぁあ、だめ、またイっちゃ、イク、いっ、!!ああ……っ!!!」
俺の体を手と足で固定し、いわゆるホールドをしながらまたナカで達する志麻くんに、俺はいきなりの強い刺激に唇を噛み締めて耐えた。
まだ達している最中の志麻くんの膝裏に手をかけて、ゆっくりとぎりぎりまで抜いたあと、一気に奥まで挿れた。
「んぁああ……っ!?!!」
まだビクビクと痙攣していた最中また刺激を与えたため、志麻くんが大きく声を上げる。
ナカの音と肌が当たる音が激しく鳴り響いて、俺は夢中になって志麻くんを求めた。
「はぁ、もう、俺も、イきそ……っ」
「ぁあ、あ、あぁっ、せん、ら、あぁ…っ」
「っはぁ、やば、いく、志麻くん…っ」
志麻くんをぎゅうっと抱き締めると、志麻くんが俺を抱き締め返して耳元に口を寄せた。
「…っ…センラ……好き……っ」
「〜〜〜っ……はぁ、イク………!!」
「ぁああっ!!……っ、はぁ、ぁあ……っ」
俺は言うまでもなく、あっけなく達してしまった。
物心ついた時から想いを寄せていた人に「好きだ」と言われてしまえば、誰だって感極まってしまうだろう。
は、は、と息を吐いたあと、志麻くんも一緒に達していたようで、ひくひくと体を痙攣させていた。
ゆっくりと志麻くんのナカから抜くと、志麻くんは体の力を抜いて息を整え始める。
志麻くんが軽く意識を飛ばしているのが分かって、俺は急いでタオルを暖かいお湯で濡らして絞ったあと、寝室へ入って志麻くんの体を優しく拭き取る。
シーツも変えて、志麻くんにスウェットを着せたあと、俺もズボンを履いて志麻くんを横に寝転んだ。
軽く頬を撫でると、ぴくんと微かに反応した志麻くんが、ゆっくりと瞼を開ける。
「ん……」
「……あ、起きた…?」
何回も瞬きをすると、少しだけ頭が冴えてきたらしく、頬を赤く染めて顔を隠した。
(なんてかわええ仕草やねん……)
「……俺、気、失って……?」
「うん、ごめんな……理性聞かへんかった」
しゅん、と頭を下げると、志麻くんが少し顔を出して、やがて俺の胸に体を寄せてきた。
「………よかったから………いい…」
「〜っ、ほんまにかわええ…すき……」
ぎゅうっと抱き締めると、志麻くんの体の力が抜けていくのが分かった。
志麻くんの体が、とても暖かい。
「…志麻くん、眠い……?」
「ん………まだ…ええ……」
「………じゃあ、1個聞いてもええ…?」
「……?」
俺が少しだけ、疑問に残っていたこと。
「…なんで、雨の日に俺を抱いてくれたん…?」
「………聞くんか、それ」
「っえ、なんかいかんかった…?」
眉を寄せた志麻くんが言いたくなさそうな声をしたので、俺は慌てて首を横に振る。
「ええよ、言いたくなかったら…」
「〜っ、別に……」
「………?」
「……お前、小さい頃、雨とか雷の日、よく家で一人で居たろ」
「…そうやな。でも、志麻くんがすぐ来てくれたから…」
「……お前が、雨見て、嫌な思いさせないように……」
「………え……」
「…って思ってたけど……結局、俺が怖がらせちまってたやんな」
声のトーンが少し下がった志麻くんを見て、俺は慌てて勢いよく首を振る。
「っなわけ…!俺、雨の日はいつも、志麻くんのことしか考えられへんくて……その………」
顔がじわじわと熱くなるのが分かると、それを見た志麻くんがふは、と笑った。
「……今度するときは、優しくする」
「〜〜〜っ、ほんま…ずるい……」
さっきまで俺の下で可愛い顔で喘いでいたのに、今は優しく見つめられ、頭を撫でられている。
ぎゅうっと抱き締めると、志麻くんも胸に擦り寄ってくれた。
「……なあ、志麻くん」
「……?」
「…今度の休みの日……公園行かへん?」
「……公園…?」
「……クローバー…探しに行きたいな、って」
照れくさくなりながら、へへ、とはにかむと、志麻くんが頬を赤く染めながらも、ゆっくりと頷いてくれた。
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
1週間後。
火曜日、『CREW』の定休日に、俺と志麻くんは近くの公園を訪れた。
緑溢れる中に屈んだ俺は必死になって地面にある葉を眺める。
それを見ていた志麻くんが、優しい顔で俺を見ていたことは気づいていなかった。
「ん〜、やっぱりなかなか見つからへんよな〜」
「…今回も俺が見つけたりしてな」
「絶対ダメ!俺が見つけるの!!」
夢中になって探すこと、数十分。
緑が溢れる中に、四つ葉のクローバーがあったのを見つけたのだ。
「…っ、あ、あった!!!」
大の大人にも関わらず、公園で四つ葉のクローバーを見つけて叫ぶ大人がどこにいるのだろうか。
俺の声にビクッと体を震わせた志麻くんが、俺の元に駆け寄ってくる。
「…あった?」
「ん!!見てこれ!よっつー!!」
何気ない笑顔で志麻くんに微笑むと、なぜか志麻くんにパッと顔をそらされた。
「……よかったやん」
「ん!……よかった、今回は俺が見つけれた」
根元を掴んでちぎると、手のひらに四つ葉のクローバーがあるのを見て、嬉しくなって思わず緩んだ口が引き締まらない。
「……なあ、志麻くん」
「…?」
「…四つ葉のクローバーの花言葉って、なんなのか知ってる?」
「……クローバーにも、花言葉なんてあんのか」
どうやら知らなかったようだ。
俺はクスリと笑って、志麻くんに顔を向ける。
「一つ葉のクローバーは『始まり』、二つ葉のクローバーは『素敵な出会い』、三つ葉のクローバーは『愛』。で、四つ葉のクローバーは……」
志麻くんの顔を見て、俺は気持ちが溢れる。
俺をじつと見つめてくれる志麻くんが、愛おしくてたまらなくて。
志麻くん、僕の大好きな、大好きな志麻くん。
「『私のものになって』」
そう言ったあと、俺は志麻くんの方へ今さっき見つけた四つ葉のクローバーを差し出した。
「……志麻くん」
「……っ……」
「…俺のものに、なってくれませんか」
微かに、言葉にする声が震えてしまう。
手も、僅かだが震えていた。
今になって言った言葉に恥ずかしくなってギュッと目を瞑ると、差し出した手に暖かい温度が触れたのが分かった。
目を開けると、志麻くんが俺の手を両手で握りながら、涙を流して微笑んでいた。
「……志麻くん…」
「……ん……」
少し近寄って、俺の肩に志麻くんの頭が乗ったのが分かると、外なのにこんなに密着してくれた志麻くんに対する嬉しさと、周りに誰かいないかという不安で俺は慌てる。
「……志麻くん……」
肩を優しく掴んで肩から頭を離してから、額同士をくっつけると、瞳が交わり合う。
その揺れた瞳を見て、俺は目の前にいる志麻くんしか考えられなくなる。
「……キスしても、いい……?」
「……ばか……外やって……」
「…嫌なら止めてや……」
「…………」
止める気などさらさらない志麻くんの様子に、俺はゆっくりと顔を近づけた。
志麻くんもゆっくりと瞳を閉じて、俺のキスを待ちわびているのが分かった。
志麻くん。
志麻くん、大好き。
「あーーっ!!センラぁ、まーしぃーー!!!」
元気のいい聞き覚えのある声に、ビクッとお互い体を震わせて、慌てて顔を離す。
勢いよく振り返ると、満面の笑顔で走ってくる坂田と、その後ろで申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせるうらたんの姿があった。
「やっぱりまーしーとセンラやぁ!こんなとこで何しとるん?俺も混ぜてや〜!!」
「〜〜っ、ぜっったいに混ぜへん!!帰れ!!!」
「なんでやねん!遊んどったんやろ、俺も皆と遊びたい…!」
「遊びちゃうねん帰れや!!!」
そんな俺の叫びは、末っ子で甘えたな坂田に染みるはずもなく。
楽しそうに笑ってその場に座ってしまった坂田を、俺だけで到底どうにかできるものではなかった。
しゅん、と明らかにテンションが下がった俺を見て、志麻くんは眉を下げて微笑む。
それをうらたんも見ていたようで、お手洗いだと言って坂田を連れてその場から立ち去ってくれた。
(うらたん、ほんまにええ人やぁ……)
「……センラ」
しばらくうらたんと坂田の後ろ姿を眺めていると、志麻くんがまたさっきと同じように距離を詰めてきた。
ん、と手を差し出した志麻くんに、首を傾げると、照れくさそうに頬を染めた。
「……お前のものにさせてくれるんやないの…?」
「……っ、ん!ん!!」
俺は志麻くんの手のひらに四つ葉のクローバーを乗せると、志麻くんが安心したように微笑んだのが分かって、先程の坂田への苛立ちもどこかへ飛んでいった。
「…じゃあ、これ」
「ん?なに………って、これ」
手のひらに乗せられたのは、三つ葉のクローバーだった。
驚いて志麻くんの顔を見ると、そっぽを向かれる。
「……『愛』、なんやろ」
「〜〜っ、志麻くん……!」
「ただいまぁー!!」
本日2回目の、坂田の元気な声。
今まで、こんなにも坂田のこの明るい声に腹が立ったことは無いだろう。
今度痛い目に合わせてやる、と坂田を睨みつけた後、志麻くんのくれたクローバーを包むように優しく握った。
「まーし、セミ取りしようや!あそこでセミの声聞こえてん!」
「……お前、ほんまに精神年齢10歳下よな」
「…てことは、俺12歳ってこと?」
「ん。……いや、7歳か」
「んな、そこまで幼くないって!」
「セミ取りは幼いやろ………」
そう言いながらも、なんだかんだ坂田のもとへ歩み寄る志麻くんは、本当に優しいと思う。
離れていく志麻くんを見つめた後、その隣で呑気に笑っている坂田を睨み続けていると、うらたんが俺の隣に腰掛けた。
「…うらたん?」
「ごめんな、坂田が邪魔して」
「…ええんよ、アイツいつも絶好調やからな…」
苦笑いした俺の顔を覗き込むと、ふは、と優しく笑ったうらたんが、幸せそうな顔で呟いた。
「…センラさんは今、幸せ?」
その問いかけは、うらたんが坂田と晴れて恋人同士になった後に初めて会った日に、俺がうらたんに尋ねた一言だった。
あのときは、うらたんが羨ましいと思っていた。
俺も、あんな風になれたら。
志麻くんと、あんな風に寄り添え合えたらと。
でももう今は、隣に君がいてくれる。
大好きな大好きな、僕の好きな人が。
「…っん、めっちゃ幸せ!!!」
志麻くん、大好きだよ。
だからこれからも。
これからも、僕だけのものでいてね。
fin.
__________________
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
今回も本当に感激です、毎回感激してます(;_;)
今回の作品気づいたらこんなに長くなってしまいました……60000字とか初めて書きました😳読みにくかったかもしれないです、ごめんなさい߹ㅁ߹)
今回は『これからは、俺だけの。』のafterstoryとして、SENRAくんとSHIMAくんをメインに作らせていただきました…!!
初めて2人の話を書いたので、至らないところがあると思いますが、暖かい目で見てくれると嬉しいです😭
お話の中にメインで出てくる四つ葉のクローバーの花言葉を知った時、めっちゃエモい…!!と思って、ぜひ使いたいと思って出させていただきました!
本当に2人には幸せになってほしいです😢🤍
さて、話は少し変わりますが、この『これからは、俺だけの。』のシリーズがかなり好評でして、たくさんの方からコメントやいいねを貰えて本当に嬉しい限りです…!!
なので、マイピク申請して頂いた人のみ限定で、今回の作品の中にあった、坂田くんと浦田くんの2ヶ月ぶりの長い夜のお話と、恋が実った志麻くんとセンラくんの甘い一時をお見せできたらいいな、と考えております…!!
ちなみに、志麻くんとセンラくんとお話は、smsnとsnsmで分けて2作書きたいなと思っております…!
さすがにエチエチシーンだけを支部にあげるのは内容も薄いし恥ずかしさもあったので、ここはマイピク限定で出させて頂こうかなと思いまして😳
👑マイピク申請の条件等は何も求めていません!!
一言挨拶をくれるだけで泣いて飛んでいきます🕊❤️
私の好きな作品とか、今回のシリーズの感想などくれたらもっと嬉しいです😭💖
こんな私の作品で良ければ、本当にたくさんの人に見て欲しいと思っていますので、気軽に申請してください😍
いつ出せるか、とか、進捗状況などは前作でもおはなししたように、Twitterでちょこちょこ呟くと思いますのでよければそちらまで飛んで頂けたら嬉しいです🕊(🔓条件あり)
改めて、この作品を読んでくださり、ありがとうございました!
これからも、じゃむおじをよろしくお願いいたします🙇🏻♀️💖
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