[R15][ShimaSen] ♡アメショsnrさんの想像妊娠ライフ♡
Author: 優
Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22112317
-------------------------------
⚠attention⚠
・腐向け、nmmnについて理解がある方のみお進み下さい。
・本人のお名前をお借りしているだけで、本人との関係は一切ございません。
・smsnとなっております。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・作者は関東住みなので、方言など見苦しい点多いと思いますが、暖かい目で見てやってください。
⚠️タイトルの通り、想像妊娠注意
-------------------------------
それは紛れもなく政略結婚というものだった。
俺の母国である猫の国は、隣にある獅子の国に比べれば小国だった。
俺ことセンラは、小国である猫の国の王族の血を引いていた。とはいえ正妻の子猫ではなく長子でもない、側室の腹から生まれた二番手の王子様。
「俺は、王さまになれへんの?なんでなん?」
「それはね...私が一番じゃないからなの。ごめんなさいねぇ、センラ。あなたは王になることに囚われず、自由にやりたいこと探しはったらええ」
「自由...」
言葉通り、俺は比較的自由が許される環境で育てられたと思う。必要最低限の教育を受けると、あとは歌ったり走り回ったり、好きなことをして過ごした。
それも俺が王を目指す気がなくて、母もそれを望んでなかったから許容されていたと知るのは後のこと。
跡を継がないオスが何匹も城にいては王の座を巡って諍いが起こると危惧され、婚姻が許される年齢になった俺は、さっさと嫁に出されることになった。
......そう。婿ではなく、嫁である。
「はぁ?嫁って...俺、オスなんやけど?」
相手は大国である獅子の国の王子。俺の二つ上で、俺との婚姻を機に跡を継ぎ、王となるらしい。
何かの手違いかと思う。俺には名前と姿が似ているセンコという美猫な同母の姉がいるので間違われたと今でも思っている。
相手の国の王ご指名らしいが怪しい話だ。
種族としても国の大きさも格上の獅子の国からの縁談を断れるはずもなく、これはいい機会だと周りの猫たちの後押しもあり、俺は国を出ることになった。
「はじめまして。俺は、志麻です」
「はじめまして、僕はセンラって言います。よろしくお願いしますね、志麻さま?」
「や、様付けなんてせんでええ。年も近いし、一応結婚...する仲なんやから。気楽に呼んでくれてええよ」
「志麻さん...志麻くん?」
「......あーー、ええね。よろしく、センラ」
相手は、えらく顔の整ったオスの獅子だった。
えぇ......嘘やろ?と内心で驚きが抑えられなかった。
婚約前に整った容姿の姿絵が送られてきて、胡散臭さを感じていた。画家に金を握らせて良く描いてもらってるんやろなぁと。
俺、それなりにメンクイやし。度を超えた不細工とかブクブクに肥えたお坊ちゃん相手だったらどないしよ〜!と笑っていたのに。
「ん?どうした?」
まさか...実物の方がかっこいいとか、そんなことあるん?
背丈が俺より低いが、がっしりと肉感のある男らしい体格をしていた。絶対モテるやろ。なんで俺なんか娶ったんや。
まぁ。別に。
......ふ〜ん、悪くないやん。
この人だったら、まぁ、ええかも。
オスなのに、オスに娶られるとか。
どんな男が来てもキスもセックスも絶対に嫌や!とたかを括っていたのに、俺のごくごく狭い許容範囲に食い込んできた男前に何も文句を言えなくなる。
「誓いのキスを」
『センラが嫌やったらフリだけでいい』と、事前に志麻くんが言ってくれた。彼も俺とのキスに乗り気じゃないのかもしれない。
唇を傾けてフリで留めてくれた彼に意向返しがしたくて、直前に俺から顔を近付けて。距離は、ゼロになる。
「ん...」
「!」
驚いて瞼を開けた彼にしてやったりと唇を舐めた。
種族的な意味で、獅子である彼は俺の上位に当たる。しかし大人しく付き従うようなメンタルはしていない。
その晩、『しきたりだから、我慢してな』と眉を下げる彼にベットに連れ込まれて、そのまま体中を暴かれた。初日に志麻くんが俺を抱くこと、それは大きな意味がある。
一番の理由は、嫁いできた俺の立場を安定させるため、体裁を整えてくれたってことだ。マーキング的な意味もあったと思う。
国の長であり、国で一番強い雄の匂いを纏っていれば、大概の者はビビるし丁重に扱ってくれる。
他国のケモノだと嫌がらせを受けることもなく、余計な手出しを受けずに済むだろうと気を回してくれたわけだ。
わけもわからないまま貫かれ、貞操を失った俺は翌日ずっとベットの上でぐすぐすになっていた。
ノンケで初モノだった俺が初夜でそこそこ気持ちよくなれたのだ。体の相性はまぁ、いいと思った。もしくは志麻くん本人が超絶技巧の持ち主だっただけかもしれない。
結婚したはいいが、彼との関わりはそれきりだった。初夜以来体を繋げてない。
英雄色を好むと言うし、志麻くんをよく知る獣人が言うには結婚する前はかなり性に関してはオープンで、来る者拒まずと言った具合で遊んでいた...らしいので、俺の知らないところで愛人でも囲っているんやろなと勝手に思っている。
彼の家臣たちはとうとう志麻様が身を固めた...!と喜んでいたけれど。全然固まってないと思うで。まぁ、体裁だけは?保たれてるんかもしれんけど?
俺は、形だけの嫁。まぁ、別にええけど。
「...ごめん、なんか、ぜんぜん味しぃひん」
「センラ様?」
「俺お腹いっぱいや。もう、下げて貰ってええかな。」
「かしこまりました。申し訳ございません、次の食事ではセンラ様の好物を用意させます」
なんだか最近、食欲がない。食の好みも変わったように感じていて、好きだった食べ物がおいしく感じられないようになっていた。
食事量が減ったことに心配した使用人さんが、間食にドーナツをたくさん持ってきてくれた。
「ドーナツや!」
俺の大好きな、いっぱいチョコがかけられたふわふわのドーナツ。嬉しくて両手でドーナツを持って、ふんふん鼻を鳴らして堪能する。
......なんか、変な匂いする?
おかしいぞ?と思いつつ、ドーナツを無理やり胃に押し込んで......数時間後。吐いた。
「なんで、なんでなん......?」
体は至って元気なのに。ご飯がおいしく感じられない。食欲がないなんて。
「......」
おろおろとする使用人たちの前に、俺はもしやとある可能性を思い付く。口元を押さえていた手を、そっとお腹にやる。まだ膨らみはないけど、もしかし
て。
「俺、妊娠してるんちゃう...?」
獣人はオスでも妊娠することができるらしい。
それなりに前例もある。元々猫科の動物は性質上受胎率が高い。オスやしそんな簡単にはいかへんとも思うけど。
ある程度着床率を上げるためには専用の薬やらホルモン剤を投与する必要があるらしいが、世継ぎを産むことができる体力面やらを考慮されて俺は嫁に選ばれたのだと思う。
思えば思うほどに、「そうである」気がしてくる。
お腹に子がいるんじゃないか。それも、センラと獣王たる彼の血を継いだ愛しい我が子が.........
想像した瞬間、ぶわわと母性やら歓喜やらが胸の内で湧き上がった。
なんとしてでも守り抜かなければ。
正直、ひとりでも育てられるとは思う。けど。
「うーん。パパに見向きもされへんのは、可哀想やなぁ。」
きちんと認知して貰って、この子が王でもなんでも、なりたいと言ったものになれるように周りの環境を固めておきたい。
皇位継承権は破棄する羽目になったが、最大限の自由を与えてくれた母猫の姿を思い返す。早くも母性とやらが目覚め始めていたのかもしれない。
「よっしゃ、俺、やったるからなぁ」
お腹の子のために頑張るよ、俺!!!!
とは言ったものの、普段と同じ生活をしていれば必然と、志麻くんと顔を合わせる機会がない。
「なぁ、坂田。ちょっと聞いてええかな。」
「どしたん」
「志麻くんはどういうものに興味示すん?」
「えぇ...?」
「あーっと、なんやろ。趣味とか、好きな食べ物とか。好きなタイプとか」
「そんなんお前が聞けばええやろ」
坂田。小国とはいえ、俺自身王家の血族である。他国へ嫁入りとなれば、それなりの数の使用人を引き連れての移動になる。坂田は俺の親戚に当たり、坂田の母猫が俺の乳母だったこともあり兄弟同然で育てられた。
俺と一緒に他国までついてきてくれた優しい男だ。人懐っこい性格ゆえか、俺より志麻くんと話す機会が多いように見えた。
「無理やし〜〜坂田の方が仲ええやん!」
「そんな恐れ多いわ。直接聞いた方がまーしーも喜ぶし」
「まーしぃ呼びしてるやんけ。俺を差し置いて」
「センラも呼べばええやん。まーしー優しいから別に怒らんで。」
「そういう問題ちゃうねん...切実に、志麻くんと仲良くなりたいねん」
「あっ一緒にご飯食べるようにするとか?一緒にいる時間増やせばええんちゃう。センラお前嫁やろ?断られることはないって」
「なるほどな。まぁ...考えとく」
「聞いといてなんやねん、反応薄すぎやろ」
「ちゃうちゃう。なんか、しんどくて。はぁぁ......ほんま、しんどい」
「センラ、医者呼ぶ?」
想像以上に、悪阻とやらがきついかもしれない。
全然食欲湧かへんし。
自室に料理を運んでもらって食事をするが、食欲がなく食べてもすぐに吐き戻してしまったりする。
料理の匂いや風味、味に違和感を覚えてしまって喉を通らない。
「悪阻の症状?そうですね、妊婦にはよくあることなんですけど、味の好みが変わったり、匂いに過敏になったりするらしいですよ」
どうしてそんなことを聞くんですかと言いたげな視線を感じつつ、相談した宮廷お抱えの医師にそう言われてしまえば、納得せざるを得なかった。
「う゛っ......いやや、もう食べたない...っ」
「センラ、大丈夫か?なんか、食べたいもんとかある?俺の権限じゃ無理やけど、うらさんとかに言って取り寄せてもらうとか出来るかもしれへん」
「ほんま...?」
いつも俺に無遠慮な坂田が眉を下げて、精一杯気を使ってくれているのが分かった。
ドーナツを再度出してもらったが、結果は同じことだった。
俺と志麻くんがあくまで肩書きだけの夫婦で深い関係ではないと知られているらしく、志麻くんをねらう雌の獅が獣王に見初められようとしてよく城の中をうろついている。
万が一を考えれば、猫族の俺は雄とはいえ雌獅子に歯が立たない。お腹の子のためやしと表に顔を出さないようにした。
ご懐妊と情報が漏れれば、命を狙われるかもしれない。内々に情報を伏せていた。
勇気を出して志麻くんの執務室に顔を出した。外交中らしいと使用人に知らされ、後を追う。
重たい扉を開けた先には、美人な女豹に絡まれる志麻くんの姿があった。
スレンダーな体型の美女で、手脚が長い。他にも、人懐っこい顔をした雌のたぬきの獣人や犬の獣人もいた。
皆が志麻くんに気に入られようと、我先にと手を伸ばしていた。
しばらく目を見開いて立ち尽くしてしまった。
...これが、外交?ただの女遊びやんけ。
一瞬、本当に外交で相手の押しが強いだけなんじゃないかと思いはしたが、元々彼は女癖が悪かったと使用人さんは言っていなかったか。
はぁとため息をついた俺は後退った。震える指先を叱責して、扉を閉める。重たい扉故に、それなりに大きい音がしてしまったことに気が付かなかった。
別に気が付かれてもどっちでもよかった。
「センラの匂いする。...んん、気のせいか?」
外交とは言っていたけど、新しいお嫁さんを選んでいたんかな。志麻くんは一夫多妻が許される立場だ。仕方がないと分かってはいる。
「...俺たち、肩身が狭くなってまうみたいやなぁ。生まれる前やのに、浮気なんてパパ酷いなぁ。ごめん、でも、俺が守るからな」
寝室に引き篭もって、膨らみのない腹を何度も撫でる。そこから返事はなく、鼓動の音も聞こえてこない。
歌うことが好きなセンラは、お腹の子に聴かせるように故郷の唄を口ずさみながら目を閉じる。
この子が産まれちゃえばこっちの勝ちや。一番に志麻くんの子孫を誕生させた俺の実績になるし、立場も安定するはずだ。
.........でも、産まれなかったら?
俺の勘違いだったら?
薄っぺらなお腹の下に新しい命が宿っているとは思えない、そんな気がしてしまって身震いした。結婚して初めて、唯一貰ったものなのに。
「そんなの、嫌やぁ...っ、おれは産むんや、志麻くんと俺の間のできた、かわいい赤ちゃん...」
脳裏によぎるのは、一番になれず側室に身を置く母猫が俺に謝る姿だった。結婚してしばらく経つのに、恋人らしいふれあいは初夜以降ない。
俺も母同様に所詮二番手の王子様でしかないのかもしれへん。
唯一の番である志麻くんに目移りされているかもしれない事実に胸が痛む。
気が触れてしまって、色々と吹っ切れるようになったのもその頃からだった。
「あの...センラ、さん?」
「んー?ふふふ」
「...まぁ、ええか」
俺は、彼の執務室に入り浸るようになった。新しい嫁を娶るまでの辛抱。執務室に居ない時に、追いかけるのもやめた。また見たくない姿を見てしまうかもしれないから。
会話は最小限で、ふんふんと鼻歌を歌いながら編み物をしたり、お裁縫をしたりする。
赤ちゃん用のサイズの手袋やセーターを作ったり、赤ちゃんが生まれたらあげる予定の、大きな手作りのうさぎのぬいぐるみを作る。ピンク色の頭巾を着せたらかわいいぬいぐるみになった。
俺の存在が気になる様で、チラチラ視線を感じるが、決して話しかけてはこない。
俺が話しかければ、優しい彼は饒舌になり、仕事をそっちのけで色々と話してくれるが、申し訳なくなって俺から話しかけることはあまりしない。
手芸に飽きて、毛糸玉をコロコロ転がして遊んでいれば、珍しく声をかけられた。
「センラは、いつも小さいサイズの手袋とか、作ってるけど」
「うん」
「大きいサイズは、作らんの」
「んー?そうやなぁ。えぇ、考えたことなかった。パパとお揃いっていうのもええかも」
「パパ?」
「ごめん、なんでもない。もしもな?俺がセーターとか作ったら、志麻くん身に付けてくれる?」
「もちろん。身につけるし、大事にする」
「ほんまに?じゃあ、今度作ってみようかなぁ」
赤ちゃんの服のサイズは分からないので、うさぎのぬいぐるみ...もといマイメロちゃんのサイズに合わせて作っていた。
大きめに作っておれば成長した時に着られるし、赤ちゃんが大きくなって着られなくなってもマイメロちゃんの着せ替えが出来る。
「志麻くん、これ着てみてや」
「俺?」
「うん、多少は伸びるやろけど、入らへんかったら作り直さなあかんやろ?」
サッと手に掲げたセーターを見て志麻くんが血相を変える。無表情で歩み寄ってきたかと思えば、勢いよく腕を広げる。
襲われる、怒ってると思った。
かと思えばぎゅっとたくましい腕に包みこまれて目を瞬くことしかできない。
「俺にくれるん」
「うん、志麻くんにって作ったんよ」
「嬉しい...毎日着る、うわ、でも擦り減りそうで嫌やな、やっぱり飾ろうかな...」
「着てもらうために作ったんやし、いっぱい着て欲しいんやけど。なんぼでも作ればええし」
「センラ......好きや、ほんまに嬉しい」
すりすり首筋のあたりに鼻を擦り付けられる。顔に当たるたてがみがふわふわとくすぐったいけど、暖かくて癒される。
ふいに落とされた甘い言葉に目を見開いて、じわじわと胸に広がるのはシンプルな喜びと、安堵。
俺はこの人に、ちゃんと好かれていた。
「......うん、俺も好きぃ」
背に腕を回して、ゴロゴロ喉を鳴らす。共鳴するように志麻くんの喉も心地のいい音がする。
この人なら、新しいお嫁さんを迎えても俺と赤ちゃんのこと、大事にしてくれそうやなと思ったのだ。壊れたように、目頭が熱くなって涙がこぼれてきた。
「センラ、泣いてる...」
「うん、俺、嬉しくて、ほっとしてもうて...」
「ほっとした?」
「俺な?ずっと不安やったんやと思うねん。いまなら、ご飯もいっぱい食べられそうや」
「ご飯て。もしかしていままで食欲がなかった?」
「うん。そうなんやけど、なんか...ほんまにお腹減ってきたかも」
「じゃあ、ご飯用意させるから。一緒にご飯食べよか」
涙を舐めとってくれた志麻くんは俺を私室に招いた。やがて2人で食事を摂った。
運ばれてきたご飯は不思議と嫌な味も変な匂いもしなくて、食欲がなかったのが嘘みたいだった。
食後にドーナツも出て来て、志麻くんに驚かれるくらいもりもり食べた。
「見て。食べすぎてもうたみたい」
「ほんまや。お腹ふっくらしとる」
「お腹おっきくて、赤ちゃんいるみたいやろ?」
「...お腹冷やすから、はよしまったほうがええよ。風邪引いてまうからな」
赤ちゃんがお腹にいることを匂わせてみるが、軽くあしらわれてしまってむくれてしまう。
「いつも食欲がないんやけど、志麻くんと一緒だといっぱい食べられる。なんでやろ?」と相談すると、出来る限り食事を一緒に摂ることを約束してくれた。
不思議だった。彼と一緒にとる食事は変な味も匂いもしない。吐き戻したりもしなかった。やっぱり、パパが近くにいると安心するんかなぁ?とお腹を撫でる。
志麻くんと一緒だと戻る食欲。その跳ね返りか、ひとりの食事がつらく感じるようになった。
たびたび、王宮内で志麻くんを狙っているであろう雌の獣人を見かけた。最近では雌ばかりじゃなくて見目麗しい雄の獣人も混じるようになった。
俺みたいな雄を娶った訳やし、そういう趣味だと思われたのかもしれへん。明らかに政略結婚だったし志麻くんの好みはどうか分からへんけど、俺のことを好きって言ってくれるし。
きっと守備範囲広めなんだろうな、雄も遊び相手になるのかもしれへんなと納得する。
それと既に愛人だったりするんか?とも思う。
もうええよ。志麻くんがどれだけ遊び歩いてても、俺のことを好きでいてくれて、大事にしてくれるなら。そもそも、俺には唯一彼から貰った贈り物が、お腹に宿ってる。
「センラ、今日の夜俺の寝室おいで」
ある日、食事を共していたときに言われた。とうとう彼の食指が俺に伸びたんやと思った。
初夜以来。あれだけ遊ぶ相手がいたのに、とうとう俺に来た。来てくれた、とぶわわと尻尾の毛まで逆立たせて嬉しくなるが、あまりお腹に負担をかけたくない。
惜しい気持ちで、事情を話せば分かってくれると思って彼の寝室に足を踏み入れた。
「...来たか」
部屋を充満する濃い雄の匂いにクラクラした。
嗅いだだけで、その威圧感に平伏したくなる感じ。でも俺は番なので、侵入を許されている。
寝具に横になる彼に近づくにつれて強くなる、甘くも感じる匂い。もしかしてこれはフェロモンなのかもしれないと思う。
「しまくん...」
「センラ、こっち来て」
逆らえない、と思った。
真白いシーツの上、あぐらをかいた彼が軽く太ももを叩く。逆らおうとも思っていなかったが、俺の脚はフラフラと彼の袂に吸い寄せられる。
彼の前でがくりと膝をついた俺は、あぐらをかいた脚に頭を預けていた。頭を撫でられ、頬をくすぐられて、意味もわからないまま喉を鳴らし、甘えた鳴き声をあげていた。
「かわいい」
寝具の中に誘われた俺は、腕を取られてシーツの上に縫い留められた。首筋に鼻を埋められて、またこの仕草...と思った。マーキングしているみたい。
顔中に唇が降ってきて、俺の緊張を解こうとしてくれてるみたいだった。初めて彼と迎えた夜も、こうして優しく触れてくれた。
のしかかった彼のある部分が固くなっていることに気がついた俺は熱い息を吐いて目を蕩けさせて、ハッとした。
そうだ。この体は、俺一人の体じゃない。
「待って、ほんまにまって、しまくん...」
「センラ?」
やわく彼の胸元を押し返せば、困惑したようき目をまんまるにしていた。
「なぁ...お腹の子のためにも、今日は辞めとこうや。安定期入ってからなら、お相手するし」
「は?」
「俺な?お腹に志麻くんの子猫がいると思うねん。悪阻がえぐくて、きっと、志麻くんに似た強い子が生まれてくると思うねんか」
きっと俺には似ても似つかない強い子が生まれてくるはず。だからきっと、センラの体と拒絶反応が出てまうんやと思う。
ふいに愛おしさが込み上げて、ずっと薄っぺらいままのお腹を撫でた。
「...どういうこと?センラ、赤ちゃんって...赤ちゃん、欲しいん?センラのペースに合わせようって思って、自重してたんやけど......」
「え?ちゃうねん。もう、俺のお腹の中にいるっていうか」
「ハァ?!一体誰の子や!!どこのどいつに子種仕込まれたんや、そいつのこと殺す...」
「志麻くんやんか。俺に仕込んだの」
「ンンン?!?!」
なにやら話が行き違っている。誰の子かなんて疑われるなんて思わなかった。コロコロと表情を変える志麻くんが少し面白い。
ついに頭を抱えてしまった彼の頬をつつけば、我に返ったように俺をまじまじと見てくる。
「それって......あの、初夜のやつ...ですか」
「そうやで?俺もそれ以外に心当たりないもん」
「えぇっ...まじか、赤ちゃん、出来たん...?」
嫌がられるかと少し怯えれば優しい手が伸びてきて、俺の薄い腹を撫でた。そのまま顔を近づけて、腹に耳を当て始める。不思議そうな顔をしている。
「センラ。なんで赤ちゃんいるなんて思ったん。医者に相談したか?」
「いや...一応したけど。最近つわりっていうん?吐き気とか、やばくって......最近は落ち着いてきた方なんやけど。安定期はいったんかなって思ったんやけど?」
「それって、この前言ってた食欲の話?」
「うん。そう」
「センラ...それは...」
「なぁ。俺たち夫婦なんやで?それに、もう子猫だって生まれるねん。なぁ、お願いやから...」
俺だけにして。かわいい雌獅子には逆立ちしても敵いそうにない。なんやけど。俺のこと娶ったんやから責任とって。小国相手の政略結婚だ。自身の立場が弱いことも分かっている。
側から見れば哀れな懇願だった。
甘い雰囲気の漂う今なら、言ってしまえると思った。
「どういう...え、なんで、センラは」
「...」
「あー、その......ごめん。センラ」
「う」
「俺、センラに大事なこと伝えてなかった。だから勘違いさせてしまったと思うし、あー、その俺もセンラが好きやから、やぶさかでもないんやけど...センラ?なんで、泣っ...」
「うううっ、うあぁッ〜〜〜...ひっ、酷い、嘘でもええから、いいよって、言ってくれればええのに」
ぶわっと込み上げてきた涙が溢れてきた。この男は、誠実で嘘が付けないんやと思う。けど、勘違いさせといてくれればええのに。
「なぁセンラ、勘違いしてるやろ。俺の話聞いて」
「いや、いやや、もう知らん、俺赤ちゃんうむねん...っ、勝手にする、かわいい志麻くんの子猫、いっぱいうむんやから...!」
「ンンン?!それは、して欲しいっ...てちゃうんやけど。いや違わないんやけど?!あのな、センラ」
「そんでな?しまくんには、指一本触れさせへん。俺だけで育てる、ううぅっ〜〜」
「センラ!!センラは勘違いしとる!妊娠してないし、センラが悪阻って言うてるそれも違くて、原因があんねん!」
「ぅう゛う゛...っ」
妊娠していることを否定された。この感じだと認知もして貰えなさそう。ぼろぼろ涙をこぼして、鼻を啜りながらもお腹を大事に抱え込んで守る体制をとった。
「間違えて引っ掻いたりしたら目が傷付いちゃうから」とまぶたを擦る手を取られて、シーツに押さえつけられた。
「ほんまに情けないし、黙ってて申し訳ないんやけど。センラ、俺と一緒に食事摂るようになったやろ。」
「それが、なんやねんっ...」
「いや、だからぁ!それより前...食欲が無くなったって言うてたやんか。変な味するって、匂いもするって。変やと思って調べさせたら...センラ、多分やけど毒盛られてた」
「どく」
「遅効性の、体に蓄積させるタイプのやつ。あっ、最近はドーナツに解毒剤混ぜ込むようにしてもらったから、もう排出されてると思うけどな?!」
「毒って...そんなのあかへんやん、じゃあ、俺の赤ちゃん、流れてもうたかもしれへんってこと...?」
「いやっ...それは...たぶん妊娠自体勘違いやと思う。毒物を調べさせる時に診察してもらったけど、そんな様子なかったし。あと!これも勘違いしてるみたいやけど、俺はずっっとセンラ一筋やからな?!」
「嘘や!スレンダーな女豹とか、たぬきとか、犬とか、俺見たで。志麻くんの愛人ちゃうん。俺が知らないだけで、既に側室やったん?」
「ちゃうちゃう!あれは、外交やねん!」
「...ハァ?」
「これでも、センラを娶ってからは減ったんやけどな。他国の連中が、俺に嫁をとらせようとしてくんねん。外交ついでに城に置いて行かれたりもして、無碍にしたら外交問題になりかねんから」
「ふぅん...そうなんや」
既成事実を作ればいけると他国の者が送り出した娘が城の中をよく歩いていたらしい。たしかに、それはよく見かけた。城に置き去りにされてたんか、あの子たち。志麻くんに絡んでたけど、あの子たちも必死だったんかな。
「そういう雌はだいたい、後ろに厄介な保護者がついてんねん。めんどくさいし、俺はセンラが好きやから!センラ以外に嫁はとらんから!」
穏便に帰らせて、後から抗議文を送る形で釘を刺したらしい。愛妻...もとい俺がいるから新しく嫁をとるつもりはないとも書いたそうなので、さらに減るだろうと教えてくれた。
「言うとくけど、狙われてたのは俺だけやないからな......」
「どういうことやねん」
「俺たち猫科の獣人はな、雌も肉食動物ってこと。センラに目移りしてた雌の獅子山ほどおったで」
それは初耳だった。どこか遠い目をした志麻くんの表情からして嘘をついているわけではなさそう。
俺の疑問に一つ一つ答えてくれて、めそめそ涙を流す俺の涙を舐めとって、根気強く撫でてあやしてくれた。
何より、センラ一筋、好き、センラだけだと繰り返してくれた言葉が嬉しくてたまらない。
「なぁ、志麻くん」
「どしたん?」
「俺、ほんまにお腹に赤ちゃん出来てへんの?何の音もしぃひん?俺と、志麻くんの間に、かわいくてつよい、しまくんそっくりの、こねこ......」
「うあ...センラ、ほんまに気の毒やけど...さすがに初夜の一回で、赤ちゃんは出来てないと思うで...時間も経ってるし、センラのお腹ぺたんこやから」
「でも、俺今おっぱい出るで?」
「ええ?!?デッ出るん?!?」
「出るよ。ちょっとやけど、おっぱいも大きくなってんねん。」
「センラ...たぶんそれは、想像妊娠の症状なんやと思う」
「想像妊娠?」
「たまにやけど、勘違いしちゃう子がいるらしいな。うさぎの獣人とかでよく聞くけど、猫の獣人でもあるんやなぁ」
食事が喉を通らないストレス、唯一の番である志麻くんが浮気しているかもしれないストレス。様々な要因があって、引き起こってしまったのだと思う。
お腹の中に、志麻くんに貰った命があると勘違いして、俺はそのことを心の支えにしていたのかもしれない。オスなのに、故郷を出て大国に嫁いで。
尊厳破壊もいいところだ。おまけに顧みられないお飾りの嫁となれば不安は大きくなる。
ごめん、不安にさせた俺の責任やと謝られてしまった。
「...ずっと思ってたことやけど」
「なに、」
「俺も志麻くんも、政略結婚だったわけやん?」
「はぁ?!政略結婚?!俺とセンラがぁ?!」
「だって俺、跡取りにもなれへんのに男児やからって厄介払いされたと思ってたんやけど」
「ちゃうちゃう!まぁ...確かに、多少強引に婚姻を迫った記憶はあるけど、政略結婚て...ほとんど顔合わせたことなかったし無理ないかもしれんけど、まじか...まじか!!」
ふたたび頭を抱えられてしまって困惑が尽きない。この人、こんなに表情がコロコロ変わる面白い人だったんだと新しい発見だった。
「そういえば、志麻くんの希望で嫁をとったって話やっけ?俺にはそっくりな姉がいるから、姉と間違えたんかなって思っとって」
「いやいやいやセンラは雄やろぉ?!流石に性別が全く違うんやし間違える訳ないやろ!」
「でも、交流もなかった状態でいきなり婚約って話になったから、政略結婚やと思ってもしゃあないやろ。俺のお見合い写真が志麻くんのとこにも送られてきたとか、そういう話ちゃうん」
「ちゃうちゃう...えぇ?まじか、そんな風に思われてたんや...」
ハァとわかりやすいため息をつかれる。百獣の王なのに、項垂れる姿がかわいらしく見えて。たてがみの毛並みを整えるように撫でれば、俺の胸元に顔を埋めて、甘えるように鼻を擦り付けてきた。
「ちっちゃい頃の話やけど、なんかのパーティーでセンラを見かけたことがあって。俺が一目惚れしたんや。それでセンラと結婚してしたいってずっと思ってた」
「俺、志麻くんと会ったことあったん?」
「いや...直接話したことはないな。俺も遠巻きに、名前を教えてもらっただけ。」
「...なるほど。まぁ、そうやろね。俺、立場的にもな?人前で目立つわけにはいかへんかったし、公の場にほとんど出ぇへんかったから...」
政略結婚だとしても、小国の第二王子である俺との間に婚姻が成り立ったことがずっと不思議だった。
俺には顔立ちや性格が似た姉もいるし、後ろ盾である猫の国より力を持った国の、気立ての良い美しい雌のお姫様など探せばいくらでもいる。
かといって、まさか「政略結婚じゃない」という考えにはどうしても至らなかった。その証拠に、俺は噂半分で志麻くんと面識がなかったくらいだ。
でももう、政略結婚だとかどうとか、関係がない。
始まりがなんであろうと今志麻くんに惹かれている俺の気持ちは変わらない。
「......なぁ、志麻くん。俺、志麻くんのこねこ産みたい。」
「...センラ」
「俺が一筋やって言うなら、形のあるものが欲しい。俺の中に刻み込んで、宿して欲しいねん、志麻くんの、強い遺伝子...っ!」
言い切る前に、口付けられていた。優しく体の力を解いていくようなキスに俺はとろとろに溶かされて、気が付けば再びシーツに縫い止められ彼の肩口に顔を埋めて鼻を鳴らす。
「センラ、好きや。はじめて見かけたあの時から、ずっと好き」
だから...とむっちりした形の良い唇は続ける。
「俺に愛されて。大事に、するから」
伝えきれなかった設定と補足(ながい)(読まなくていい)
志麻
幼い頃のパーティで猫センラさんを見かけて一目惚れ。
相手が第二王子なので中々公の場で再会できず、交流を深めることが出来ないまま適齢期まで来てしまった。
大国の権力を行使して小国の王子の外堀を埋めまくって娶ることに成功する。
国に嫁いで来てもらう形になったので、新しい環境に慣れてある程度仲良くなってからにしようと初夜以降寝具に呼ぶのをギリギリの理性で抑えていた。
センラさんが執務室に入り浸って編み物をしてる姿を見て、そろそろ夫婦としてステップアップしてもいいんじゃない??と胸を躍らせる。
直後、毒を盛られて弱っている事実を知って絶望。お預け。
もっと気を遣ってあげてれば...!と後悔すると同時に、体調が良くなってきた頃合いを見てやっと寝室に呼んだ。想像妊娠してしまうほど、心身共に弱っていたことに気がついて泣きそうになる。
直後に子猫をおねだりされたのでしっかりやることやって種付けする(する)
センラ
後ろ盾として弱い小国の第二王子(側室の子)だったこともあって、政略結婚と勘違い。センラの立場が弱い故に、獣王の正妻を狙う大国のお姉様方が我先にと外交を装って獣王にアタックしまくる。その場面を見かけて傷心。
初日から少量の毒を盛られており、蓄積したところで体が拒否反応を起こして食用不振や嘔吐を繰り返すように。(悪阻と勘違い)
政略結婚から始まり旦那の浮気を疑っていたこともあり、割と精神的に来ている。お腹の子の存在が心の支えになっていた部分が大きかったので母性マシマシ。
想像妊娠だと告げられてショックを受けるも、獣王が自分にベタ惚れなことを知り子猫をおねだりしたので、いずれめちゃくちゃつよくてかわいい旦那に激似の子猫をたくさん産む。
🐱💛「俺な?お腹に志麻くんの子猫がいると思うねん。悪阻がえぐくて、きっと、志麻くんに似た強い子が生まれてくると思うねんか」
⇐このセリフどうしても言わせたくて書きました。
Bạn đang đọc truyện trên: AzTruyen.Top