第4話
「いや、確かにディアーナ様との結婚を陛下と妃殿下に認められる方法として『誰から見ても反対される様な相手を連れてこい』とは言ったが、まさかお前が死体を持って帰ってくるとは思わなくて、正直びっくりしたぞ。」
夜中、誰もいない、盗聴される心配もない秘密の部屋で俺とリアムは話をしていた。本来彼は王太子で敬うべき相手だが、『乳兄弟なのだから、人目のないところでは普通に接して欲しい』と言われたので、平常通りの話し方をしている。
「いや、そこらの平民を連れてきても健常ならそれで良いとか言いそうだったし、選ぼうにも少し触っただけで鳥肌が立ったしな。
さて犬か猫でも連れて帰ろうかと思ったら、ちょうどお誂え向きに死にたてほかほかの死体が目の前にあるじゃないか。
しかも、傍から見ても割と綺麗な部類に入ったし。これこそ、天の配剤かと思ったよ。
金をちらつかせても、駄目だったが『とても美しい姫をどうしても側におきたい、大切にする』ってお願いしたら割と簡単に譲って貰えたよ。
僕の役に立ってもらった後にきちんと立派なお墓を作ってあげるつもりだったから、大切にするという約束は守れているよね。
そうしたら運んでいる最中に息を吹き返すじゃないか、驚いたよ。さて、どうしたものかと思っている間に従者がペラペラと『僕が隣国の王子である』ことや、『姫に一目惚れ』したことを話し出すからさすがの僕も頭を抱えたよ。
僕のことを知るなり、姫が勢いこんで、自分は隣国の王女で継母に虐げられていて、過去4回も命を狙われていたと話し出したんだ。
1度目は狩人、2度目は腰紐で圧迫死、3度目は毒を塗った櫛を頭にさされて、4度目は毒林檎だそうだ。
そこまで執拗に殺そうとするあたり隣国の王族のお家騒動だろう、関わっちゃいけないやつだな。姫は僕に対して媚びをうってくるから気持ち悪いし。
しかも、『結婚式に継母を呼んで、焼いて真っ赤になった鉄の靴をあの女に履かせてやる』とか言い出したんだ。
実際城を追い出されたり、殺されかけたりと同情に値する境遇かと思いきや、そんなことを言い出したから、びっくりしたよ。本当に本人が言う様に『何もしてないのに殺されかけた』かどうか疑わしいところだね。もしかしたら先天的な異常者で親が責任を持って処分しようとしたのを邪魔したのかもしれない。
このまま生かして連れ帰ろうものなら下手したら我が国と隣国で戦争だ。あちらの国でお互いいがみ合うなら好きにやってくれていいが、我が国が巻き込まれるのはかなわない。
しかも、隣国で実権を握っているのは継母である王妃みたいだしね。だから処分することにしたんだ。本来なら従者に言おうかと思ったんだけど、それで姫は一度難を逃れているからね。もう、僕がしっかりやっておかないとと思ったんだ。
まあ、僕が欲しいのは彼女の死体だったから、できるだけ綺麗な形で殺したかったんだけど、毒を2回も盛られても生きている様な姫だろう?確実にやりたかったから、僕が手加減なしで首を絞めたんだ。正直あまり良い気分ではなかったが、流石に剣で首を切った死体を『愛しの彼女』と言う自信までなかった。」
「うん、お前の思い切りの良さに驚きだわ。」
「仕方があるまい、サンディー。結局玉座とは血で贖うものだ。無用な血はできるだけ流したくないが、我が国に不利益を齎すものであれば排除するのは王族として当然のことだ。
そもそもお前があんなことを言わなければ、『最初から死体でした』で済んでいたんだ。」
「もし口を挟まなかった場合、新しい婚約者を連れてきてもお前がまた手にかける、と言う脅しは使えなかったぞ。
......正直俺はあの時ほどお前が本当に狂ったかと思ったことはなかった。」
「ははは、本当に死体に惚れて結婚したいとかいう御仁なんて今回の僕以外見たことなんてないよ。よくもまぁ城中の人間が信じてくれたものだと僕も思っているよ。」
「本当にディアーナ様以外ではダメなのか?正直に言って彼女をお前に任せるのは心配で心配で仕方がない。」
「それができていれば、問題はない。
お前も知ってるだろう?僕は幼い頃から女性に追いかけ回されて、貴婦人とか淑女とやらが大嫌いなんだ。あの臭い香水の匂いも派手派手しい化粧も全部が全部気持ち悪くて仕方がない。
しかも年上の貴婦人に襲われかけたことがあって以来、女性を触ると......知っているだろう?鳥肌や蕁麻疹が立つんだ。気持ち悪くて吐きそうになるし、子作りなんてとてもじゃないけど無理だね。
でもディーだけは違ったんだ。初めて見た時は雪の妖精か何かだと思った。触ると溶けてしまいそうだと。触れてみたくてダンスを申し込んで、踊ってみたら、『楽しい、こんなに綺麗な場所でこんなに楽しいことがあって良いのかしら!生きててよかったわ。一生の思い出ね』って笑ったんだ。すごく可愛かった。
あれ以来僕の目には彼女以外入らない。僕が鳥肌も蕁麻疹も起こさないのは彼女だけだ。」
「あー、ディアーナ様が可愛いばっかりに茨の道を...。
元はお前のその病気を治すために医者を目指して子爵家を飛び出したんだけどなぁ。」
「お前は最高の特効薬を用意してくれたよ、サンディー。」
「ディアーナ様をものみたいに言うな。
けどな、わざわざ婚約解消までする必要があったか?お前はディアーナ様を手放すつもりも他の男にやるつもりもこれっぽっちもないだろうが。
俺がディアーナ様を抱き上げただけでイラッとするほど狭量のお前がよくもまぁ思い切ったな。」
「そりゃあ、中途半端なことをしたら、父母がどう出たことかわからないだろう。今は生きていてくれるだけでもう十分と思っているだろうが、そこでつけ入る隙を残したままにしていたら、またぞろ変な気を起こして訳のわからない女を連れてくるに違いない。」
「おかげで、ディアーナ様は『王太子が溺愛しているだけの役立たずの婚約者』から『王族から頭を下げて無理にお願いした婚約者』になれて、陛下も妃殿下も大喜びってことか。」
「そうそう、まぁ彼女がことの真相を知ったらどう思うかはわからないけど、隣国との戦争は避けられたんだから、これでよしとしておいてくれ。
元から僕が手を出さなければこんな後味の悪い話じゃなかったかもしれないけど......。まあ、最終的にきちんと自分で自分の尻拭いはしたんだから、問題ないだろう。
でもおかげで愛しい婚約者の地位は確立されたし『医者になる』とか言って飛び出して行った大切な幼馴染も僕の元に帰ってくることになった。君がディーの主治医をしていると聞いた時は驚いたものだよ。」
「俺も、お前が彼女に婚約を申し込んだ時は驚いたもんだった。彼女を通じて王宮に帰る様に説得するつもりなのかと思ったくらいだ。」
「確かに、お前は大事な乳兄弟で、大切な親友だけど、ディーほどではないよ。正直いなくなったのは寂しかったが、居場所を探すまでの執着はなかったから安心してくれ。君がディーの主治医と知ったのは彼女に申し込んだ後だ。
でも、彼女の主治医を辞めるつもりはないだろう?」
「まあ、ディアーナ様のサポートとして俺ほど適任者はいないからな。」
「そう言ってくれると思っていたよ。
それに周りが心配するほど、彼女は無知でもないと思うよ。そりゃ、世間知らずで箱入りなところがとても可愛いんだけど、話してみると彼女の知性に驚かされることは多い。国のためにならない結婚にはきっとならないよ。」
「......俺、お前が時々すんげー怖いわ。」
「おや、サンディー、同じだね。
僕も今幸せすぎて怖いくらいだよ。」
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長々とお付き合いありがとうございました。
前作と違い、ざまぁは一切ありませんので、もやもやした方はすみません。
「なろう」らしいタイトルを付けたかったのと、白雪姫の王子様は『死体愛好家』であると言う説以外に何か説明がつかないかなと思って書いたお話しです。
すっきりした!と言う話ではないので、期待外れだなと思われた方は本当に申し訳ないです。
完成
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